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評者◆北村知之
単身者が料理から遠ざかる原因を解消
ひとり料理 これだけあれば
木村緑
No.3195 ・ 2015年02月21日




■作家の長嶋有は、エッセイ集『安全な妄想』(河出文庫)所収の「自炊考」のなかで、「料理の本は、料理のことしか載ってない」と書き、数多くの料理本にみられる不備を嘆いている。それは教える者が教わる者に対しての「それぐらい(書かなくても)知っているだろう」「こんなことは(書かなくても)当たり前だ」という無意識の期待である。その自らの無知への不安を汲んでくれない態度が、とくに初心者、入門者向きの内容である男性の単身者用の料理の本にとって一番の弊害となっている。料理をしないものは、本当に料理をしない。だから本当になにも知らない。
 そろそろ料理のひとつでもできたほうがいいだろうと、多くのひとが思っているはずだが、一人暮らしにとって自炊のハードルは案外高いものだ。仕事が忙しくて時間がなかったり、住んでいる部屋のキッチンが狭くて使い勝手が悪かったり、せっかくチャレンジしてみても一人分だと材料を余らせてしまったり、なんだかんだと買い揃えると意外とけっこうな出費になってしまったり、レシピに書かれている細かい手順をふんでいくと時間ばかりかかって、いざ食べるときにはすっかり疲れてしまっていたりする。
 木村緑『ひとり料理 これだけあれば』(京阪神エルマガジン社)は、そんな料理から遠ざかってしまう単身者ならではの原因を、解消してくれるはずだ。まず本を開いてみると、1ページにばーんと大きく「なんで料理したほうがいいの?」と書かれている。この一言だけで本書がもつ読者へいっさい期待しない姿勢が示されており、他の一般的なレシピ本とは一線を画していることがよくわかる。
 関西では有名なカフェの店主である著者が、「もうすぐ独り立ちする息子に手渡せるような本を」と思いついたという企画だけあって、本当にまったく料理をしないひと、料理の右も左もわからないひとのための内容になっている。
 まず話は、「さっそく料理」とはならずに、その前段階である最低限必要な包丁から保存容器までの道具と、基本的な調味料の解説から始まる。それもマンガをつかって。そして食材や調味料の分量や、水加減、火加減といったレシピの読み方を教えてもらったあとに、ようやく料理にたどり着く。
 肝心のレシピ集では、まるでよしながふみ『きのう何食べた?』の料理シーンのように、手順ごとにコマ割りの写真をつかって紹介してくれる。はじめての作業を文章から想像しておこなうようなことはなく、ただ見たとおりに素直に作っていくだけでいいのだ。料理マンガや食マンガになじみのある世代にとっては、もっとも理解しやすい表現かもしれない。
 レシピの内容は、玉ねぎ、キャベツ、大根、じゃがいも、にんじん、の基本5野菜を活用して献立を組み立てることで、同じ食材が続いてしまったり、反対にいろいろ買ったものの使いきれなかったりといった、単身者いちばんの問題を解決してくれる。少ない道具と基本の調味料、常備野菜を使いまわすことで、一人暮らしでも変化に富んだ自炊生活が実践できる。
 コンパクトな台所でも邪魔にならないサイズ、防水カバー付き。新生活に必携の書。







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