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評者◆添田馨
いかなる旗のもとに?――薄汚れた国(8)
No.3195 ・ 2015年02月21日




■昨年の暮れも押し詰まったある日の夕刻、歳末の人出で賑わう繁華街の歩道脇で、髪の毛を金色に染めたジャンパーにジーンズ姿の若者が、片手に大きな日の丸を持って道行く人々に何ごとかを大声で叫んでいた。瞬間、聞き取れたのは、日本ほどよい国はないのに、何故あなたたちは……といった、人々の無関心さを難詰するような口吻だったように記憶している。
 道行く人々の誰一人として彼の言葉に耳を傾ける者はいないように見えた。そういう私も、足早にそこを通り過ぎた群衆のなかのひとりに過ぎなかった。そのとき内心おもった。私にも大声で叫びたいことの二つや三つはあるのだ、と。
 “Show the flag!”――以前、外国の政府高官が発したこの言葉は、その後、勝手にひとり歩きを始めた感がある。しかし、旗色を鮮明にすることが必ずしも賢明な選択ではない場合もあるのだ。イスラム国による二人の日本人人質の殺害は、その冷厳な哲理を私たちに根底から問いかける、歴史に残る事件となるだろう。私にもいま大声で叫びたいことはある。だが、そのとき口をついて出るのが誰かを罵る言葉にならないという自信がない。だから今は沈黙する。亡くなったお二人のご冥福を、心のなかでただ祈るばかりだ。
 かのテロリストたちは、今後、日本人をその殺戮の対象にする旨をはっきりと宣言した。だが忘れてはならない。テロを仕掛けてくるのは何も彼等ばかりではない。自分たちの政府だって、私たち国民に攻撃を加えてくることはあるのだ。
 「真の愛国者は、自分の国を政府から守らなければならない……」――映画『JFK』のなかの印象深い一節だ。戦後の日本が汚れていなかった、などと言うつもりはない。だが、みずから進んでこれを“血で汚れた国”に変えていこうとする者たちの意図を、絶対に受け入れることはできない。では、いかなる旗のもとに立つのか?
 思想を根底から問う覚悟ならば、君自身がみずからその旗となるのだ。
――この項おわり







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