書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆小嵐九八郎
文学の根本命題への、ある“解答”
八月の光
荒牧三恵歌文集
No.3194 ・ 2015年02月14日




■老いた当方に対して有り難いと思いながら、一と月に十五冊ほどの小説本、三〇冊ほどの歌集をいただき、読む努力を可能な限りする。その歌集も、一応は美学ものを小説にした俺なので、表紙をどうしても睨むようにして見てしまう。おや、枯れた花の絵だ。背景の大空にも花を葬うごとき暗雲、地には工場や人人なのか、黒黒と謎めいた激しい凹凸のある塊が描かれている。好きな画家の五木玲子氏のものとすぐに分かった。表紙の絵や装幀は、かなり重さを持つ。もう四半世紀前、ある編集者から「濃密恋愛小説の売れゆきの八割五分は、表紙の絵で決まる。マジと言われている純文だってそう、三割だな。あとは、キャッチ・コピー」と熱く教えられたことがある。
 それで、まるで名は知らなかったけれど、荒牧三恵さんという人の歌文集『八月の光』が暮れに送られてきて、正月の酒の肴に読んだ。
 見知らぬ人なので、どうしても歌より文が先に、金田冨惠さんという人が書いている栞から読んでしまう。ま、ここは、三十一拍、三十一文字しかない短歌の命運で、詩が短いゆえに、その人となりは詩の中身まで決めることにどうしてもなる。老人になって文化勲章を嬉し気に貰ったとしたら、啄木の歌は、中城ふみ子の歌は、岸上大作の歌は、地に堕ちるはず。栞と、荒牧さんの文によると何とも凄まじい一庶民の生であるのだ。一九二七年米国カリフォルニアに移民の子として生まれ養女へ、そして三歳ぐらいで日本の福岡へ、養父から強制された結婚生活で夫の暴力の激しさに自死を企て、失敗。出奔し、懐かしいですな、短歌結社『未來』の近藤芳美氏を頼り、やがて水商売。二十五年間ほど歌を作ったけど、政治を含む行為に対し「文学や芸術は二義」と『未來』を退会。つまり、文学の根本命題に、ある“解答”をしたのだ。
 《酒酌みて生くる職場を貶めてふふと嗤ったあなたは詩人》
 《日本沈没あれよ一蓮托生の死の平等をとくと見てやる》
 ぬるま湯のわたしやは考え込む。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約