書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆山本明広(BOOKアマノ有玉店)
「無関心」広がる世の中で生まれた一篇の詩が投じる一石
宮尾節子アンソロジー 明日戦争がはじまる
宮尾節子
No.3193 ・ 2015年02月07日




■言いたいことを正直に言いづらい世の中で、人知れず「うた」に思いを託したことがあるという人は、きっと少なくないだろう。素直でさりげない言葉で7年前に書かれたある詩が、ツイッターで爆発的に拡散され、様々な媒体で注目されて一冊の本になった。それが今回紹介する『明日戦争がはじまる』だ。

まいにち/満員電車に乗って/人を人とも/思わなくなった/インターネットの/掲示板のカキコミで/心を心とも/思わなくなった/虐待死や/自殺のひんぱつに/命を命と/思わなくなった/じゅんび/は/ばっちりだ/戦争を戦争と/思わなくなるために/いよいよ/明日戦争がはじまる/

 いつからだろう、道ですれ違う人とあいさつを交わさなくなったのは。人に触れることを避けるようになったのは。町内どころか同じアパートに住む人のこともよく知らない。ギリギリの人員で限りある時間の中で終わらせなければならない仕事、問い合わせやレジでのお客様とのやり取りも必要最低限の義務的なことくらい。お客様との対話を通してお店づくりをしていくことが理想のはずなのに、あわただしい日常に流され、それすらも出来ないで何をやっているんだろう。そんなことを考えていた時に、この詩に出会った。
 様々な人が共に暮らすこの世の中で最も怖いのは、無関心である。そのことを「戦争」「政治」「いじめ」といった事柄に絡めながら素直な言葉で紡いだ詩が、一冊に集められている。
 先の衆議院選挙、総務省の調査によると、小選挙区の投票率は戦後最低の五二・六六%だったという。テレビのインタビューや新聞記事では「興味がない」「よくわからない」「私一人が投票したところで変わらないと思う」などの言葉が並んでいた。その一方で、政治の世界では様々なことが日々決まっていき、我々の生活に影響を与えている。それでも私たちは無関心でいてよいのだろうかと、一篇の詩を通して思わされる。
 マザーテレサは「愛情の反対は無関心である」と言ったという。著者は、目の前にいる大切な存在、共に暮らす他者に、そして自分自身にちゃんと目を向け、大事にするようにと、自らを顧みながら詩という形で表現する。私自身も抱えるうまく言葉に出来ない思いを代弁してくれたかのような、まっすぐな詩に心を打たれた。
 私が働いている店も御多分に漏れずだが、いわゆる「町の書店」には様々な事情があって、なかなか新しい詩集が並ばない。あっても既に売れている詩人の作品だったり、教科書に載ったりしているものが数点あるのがやっとというところが多いのではないだろうか。そんな中でこうして、ツイッターなど無料のインターネットサービスで公開された詩が話題になり、これまであまり知られていなかった詩人の作品が本になり、「町の書店」でも置かれる。本書は、そんな新しい流れの中で生まれた一冊と言えるだろう。このようにして、たくさんの思いがこもった言葉の力が本という形になり、もっと多くの人に届くようになることを願う。








リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約