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評者◆殿島三紀
人間的な魅力に溢れたオルガナイザー――ケン・ローチ監督『ジミー、野を駆ける伝説』
No.3191 ・ 2015年01月24日




■『トム・アット・ザ・ファーム』『三里塚に生きる』『自由が丘で』『ニューヨークの巴里夫』などを観た。
 『トム・アット・ザ・ファーム』は弱冠25歳のグザヴィエ・ドランの監督・脚本・製作・主演作品。同名の演劇を映画化した。演劇はコミカルだったというが、本作はスリラーが香り立つ。若くして美貌と才能に溢れた監督の「これでもかっ」の気負いがすごい。
 『三里塚に生きる』。監督は大津幸四郎。小川プロの映像と大津幸四郎監督が撮り下ろした現在の映像、北井一夫写真集「三里塚」(1971年)の写真と彼が本作のために撮影した写真。その新旧の映像と写真から成る記録映画。40年前の闘う農民の姿と静かに志を持続させる現在の農民の対比が印象的だ。
 『自由が丘で』。ホン・サンス監督作品。主演は加瀬亮。恋人に会うためソウルにやってきた日本人青年。彼の長い手紙を受け取った恋人。彼女はその手紙を階段で落とし、そのバラバラになった手紙の順番のままに映画も進行する。ホン監督、韓国のゴダールと称されるのも納得だ。
 『ニューヨークの巴里夫』。セドリック・クラピッシュ監督のグザヴィエ・シリーズ第3弾。そして最終章。フランスの大学生グザヴィエのドタバタ青春を描いた『スパニッシュ・アパートメント』(2001年)から映画の中では早20年が経過し、グザヴィエは40歳。「四十にして立つ」からは程遠い彼の生活に失笑し、共感する。
 今回紹介するのはケン・ローチ監督作品『ジミー、野を駆ける伝説』。2006年カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『麦の穂を揺らす風』に続き、またもアイルランドをテーマにした作品だ。国を分断した内戦が終結してから10年後のアイルランドの田舎町が舞台。
 アイルランド独立戦争は1919年に起こり、21年に休戦。12月に英国との間で条約が調印された。その結果、南アイルランドにアイルランド自由国が成立し、アルスター地方のうち6州は北アイルランドとしてイギリスの直接統治下にとどまった。現在も続く北アイルランドの帰属問題は本条約に始まる。条約批准後、国内のナショナリストたちは条約賛成派と反対派に分かれ、22年から翌年にかけてアイルランド内戦が勃発した。
 本作の主人公ジミー・グラルトンはアイルランド出身の実在の人物である。内戦後の混迷した時代に庶民の絶大な支持を得た活動家だが、そのプロフィールなどはほとんど知られていない。
 国が二分され、その上、カトリック教会による精神的な抑圧も受けている時代に、詩を詠み、アートを創り、学習し、ダンスも楽しむ今でいうカルチャーセンターのようなコミュニティホールを設立したジミー。本作では一度ならず二度までも国外追放を受け、死ぬまでアイルランドの地を踏むことのかなわなかった彼の波乱に満ちた人生が描かれている。社会派ケン・ローチの面目躍如である。
 一体いつの話かと思えるほどカトリック教会や地主層が横暴な圧政をしいていた内乱後のアイルランド。ひどい話だ、と思いながらも、遠い世界の出来事という感が拭いきれなかったのを一転させたのはジミーのセクシーな素顔だった。もちろんジミーは清廉潔白な人物だ。無学ながら「ただ生存するためではなく喜びのために生きよう!」と声をあげて闘い続ける姿もかっこいい。オルガナイザーとして第一級でもあったが、人間的な魅力も持ち合わせた人だったのだろう。きっと彼のもとには政治力や指導力だけではなく、そのセクシーさゆえに支持者も協力者も集まってきたのに違いない。
 月明かりの下、かつての恋人で人妻のウーナと踊るジミー。抑えに抑えた恋心が溢れ出てくるような切なくも美しいシーンは本作を一級の恋愛映画としても成功させている。
(フリーライター)

※『ジミー、野を駆ける伝説』は、1月17日(土)より、新宿ピカデリー&ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー。







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