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評者◆小嵐九八郎
アラブ世界への問いや吐息に答える
ジャスミンの残り香――「アラブの春」が変えたもの
田原牧
No.3191 ・ 2015年01月24日




■六十代半ばに差しかかった時、残りの人生も長くはないわけで、好い加減な性格ながら、いや、好い加減な俺だからこそ、必死に生き、格闘し、凄みのある大いなる“人”の生を書きたくなり、イエスについて記し、次はイスラムの開祖のムハンマド、そして仏陀、終わりはゲバラの順で次をと考えていた。が、かつて『悪魔の詩』の翻訳者が“見事に”消されたせいか、現今の“イスラムはみんな危険”の偏見のゆえかムハンマドを「書かせて」と打診した四社から「困ります」と拒まれた。うーむ。
 もっともイスラムの実体について当方は無知だ。いわんや、二〇一〇年のチュニジアから火がつき、翌年、アラブの盟主たるエジプトのムバラク独裁体制を覆してピークを迎えた“アラブの春”については『中東民衆革命の真実――エジプト現地レポート』(田原牧著、集英社新書)で初めて宗教、政権、倒す側の内実を知った次第である。
 御存知の通り、その後、エジプトでは、イスラムの割あい穏健と新聞上にて教えられていた「同胞団」政権がデモと集会と実質上の軍隊によるクーデターで潰れ、国防相が大統領となり、これ、どうなってんだろう? シリアでもなかなか決着がつかないと思っているうちに「イスラム国」がイラクへと越境し、あれよあれよという間にその領域を拡大してきた。「イスラム国」って何なのだろう?そもそも“アラブの春”って、徒労だったのか?
 こういう問いや吐息について、二十五年間、留学を含めてイスラム圏を見て、再びエジプトを訪れた田原牧さんが『ジャスミンの残り香――「アラブの春」が変えたもの』で答えている。エジプトに限らずアラブ世界のイスラム宗教陣の分析、権力の分析、民衆の決して諦めていない声の収録と、熱い。むろん、田原牧さんの煩悶の心も今度はある。そればかりか、アラブから日本の反・脱・原発闘争や、そもそも革命へと照射している。結語の思いは、七十の老人も勇気をもらった。開高健賞も宜なるかな。







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