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評者◆ベイベー関根
「こわれゆく女」アゲイン。
ハウアーユー?
山本美希
No.3189 ・ 2015年01月10日




■「山本美希の新作が出たなー。実は前作『Sunny Sunny Ann』のときもここで取り上げようかちょっと迷ったんだけど、とりあえず今回まで待っててよかった! 新刊のタイトルは『ハウアーユー?』。「手塚治虫文化賞新生賞受賞後第一作」で、「全編描き下ろし336P!」なんだそうな。これは版元が偉いね! というのもこの本、1冊まるごと3年をかけて描き下ろされたらしいんだけど、そんな制作態勢を作者に許してくれた祥伝社にまずは敬意を。今どきこんなことなかなかできないよ!
 正岡家の奥さんリサは、金髪の外国人。旦那さんは家族思い、高校生の娘も美しく成長し、何の問題もない……はずだったのだが、ある日、夫が家に帰ってこなくなり、そのまま蒸発してしまう。生活ペースを崩すまいと平静を装うリサだが、日本で生まれた娘と違い、もともと異なる文化の国にたったひとり、守ってくれる人もいないという状況の中で、しだいにその精神は軋みを隠しきれなくなる。そして遂に、届かぬ手紙に業を煮やしたリサは、フライパンで郵便受けをメッタ打ちにし始めるのだった……といっても、これは物語の発端。まだまだいろんな事件が控えてるんだが、とりあえずいっとかなきゃいけないのは、この物語のメインの語り手は、上の説明の中には出てこない、正岡家の隣に住むツミちゃんことナツミという中学生の女の子だってことかな。
 リサの異変にいち早く気づくのはツミちゃんで、その後もリサの様子が気になってしょうがない。なんとかツミちゃんなりにリサの崩壊を食い止めようと努力はするのだが、ある日ツミちゃんがリサとの約束を忘れてしまうことで、リサは決定的に精神の均衡を崩してしまう。そして、さらに事態は悪い方向に進んでいく……って、あらすじはもういいですか、そうですか。
 山本美希の絵は、雑に見えるところもあるんだけど(というか、明らかに絵としておかしいところも多々ある)、大事なものをぐっと掴まえてくる力量は『爆弾にリボン』以来のもので、頼もしいねー、やっぱ。
 そして、絵もそうなんだけど、主題の選び方や風景
の切り取り方、演出のしかたがねー、どうも岡崎京子を感じるんだよなー。というか、もっと積極的に岡崎京子を背負っていこう、くらいな気概が感じられて、おっさんとしては、その意気やよし! という感じ。
 本作は非常にエモーショナルな作品ではあるんだけれども、それを描く作者の側はそれをインテレクチュアルに、というかアルチザン的に扱おうとしていることが、作者自身による作品解説を読むとよくわかる。漫画家志望者は必読!
 ただ、ヤマモっちゃん。泉信之の書いてることなんか真に受けなくていいからな! ページの向きがどうとか、視線の誘導がどうとかなんて、あんなの現状追認にしか役立たない議論なんで、その逆をやって成立させられないのか、くらいに考えといた方がいいんだぜ。君ならできる!







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