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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家 辻尾かな子の巻⑲
No.3189 ・ 2015年01月10日




■内外のLGBT運動に関わる

 尾辻かな子は、出版によるカミングアウトによって、LGBTムーブメントにも真正面から積極的に関わるようになる。
 議会や委員会で性的マイノリティの人権問題について質問・追及するだけでなく、議会を飛び出し外へと向かった。大阪医療専門学校で社会教育人権論の講義を半年にわたって毎週はじめるなど、乞われればいつでもどこででもLGBTの人権問題について講演や情報発信を引き受けた。
 大阪を超え、日本を超えて、さらに外国へも知見とつながりを求めた。
 2006年4月にはスイスのジュネーブで開催された国際レズビアン・ゲイ協会(International Lesbian,Gay,Bisexual,Trans and Intersex Association、略称ILGA。600以上の関連団体が参加。性的マイノリティの権利のため世界100か国以上で活動)の世界会議に参加、2か月後の6月にはアメリカ国務省によるIVLPという次世代のリーダー向けのプログラムに選ばれて同国のLGBT当事者や各種の支援団体を訪問・交流、どちらからも新しい刺激と触発を受けた。
 ILGA世界会議では、「IDAHO(The International Day Against Homophobia and Transphobiaの略称)」キャンペーンが世界中で展開されていることを知り、日本に持ち帰ってさっそく運動化に取り組んだ。IDAHOとは、同性愛者とトランスジェンダーに対する偏見を是正しようという啓発イベントで、1990年5月17日、世界保健機関(WHO)の国際障害疾病分類から同性愛が削除されることになったのに因んで、毎年その当日に世界の各地で行われていた。
 毎年6月28日に催される「PRIDE DAY」には、尾辻もカミングアウトする以前の2000年から参加して「自分は一人じゃない」と勇気を与えられたが、IDAHOは日本ではまだ取り組まれていなかった。尾辻は、両方が必要だと考え、「TOKYO PRIDE」「レインボーマーチ札幌実行委員会」「ゲイジャパンニュース」と共に事務局をつくりその年の5月17日に日本初のIDAHOキャンペーンの実現にこぎつけた。
 IDAHOは翌年からは、若きLGBT活動家の遠藤まめた(小学校時代のあだ名からとられた活動家名)に引き継がれる。遠藤は当事者として大学時代から同世代の性的マイノリティ支援に取り組んでいたが、日本におけるIDAHOキャンペーンを「差別と偏見NO!」から「多様な性にYESの日」に前向きに位置づけ直して、2014年は全国15か所で同時開催するまでに広がりをみせている。なお、遠藤まめたは、獣医師として食の安心・安全をまもることを生業としながら、IDAHO以外にも、「いのちリスペクト。ホワイト・キャンペーン」の共同代表としてLGBTの自殺予防活動を進めている。
 その遠藤まめたもそうだが、尾辻は、この時期、日本のLGBT活動家を産み育てる揺籃づくりにも関わった。現在でこそLGBTの学生団体は、多くの大学にできていて“市民権”を得ているが、そのフロントランナーとなったのが「レインボーカレッジ」。スイスの国際レズビアン・ゲイ協会世界会議から帰国したばかりの尾辻がICU(国際基督教大学)ジェンダー研究センター所長の田中かず子同大教授から講演に呼ばれ、その後参加者との懇親会から生まれた組織だ。ここからは遠藤まめたをはじめ、学生パレード代表の慶太などの活動家を輩出する。
 法曹関係者のネットワークの立ち上げも手伝った。仕事がらLGBTに興味・関心をもつ大阪と東京の弁護士の顔合わせの機会をつくった。すでにアメリカでも同様の組織があり、その活動内容などを情報交換するなかから、翌2007年「LGBT支援法律家ネットワーク」が立ち上がった。現在、北海道から九州まで全国各地の弁護士、司法書士、行政書士、税理士など60名以上のメンバーがLGBTの法律問題に取り組んでいる。
 2006年9月に起きた都城市の条例改変問題にも積極的に関わった。
 都城市は2004年4月に「男女共同参画社会づくり条例」を施行、「男女共同参画社会」を「性別または性的指向にかかわらずすべての人の人権が尊重される」と規定し、全国でも先進的と評価されてきたが、その条文が削除されることになったのである。「憲法第13条及び14条においてすべての国民の個人としての尊重及び法の下の平等が明記されているところであり、『すべての人』という表現で包括できる」というのが理由だが、背景には保守系議員からの圧力があった。尾辻は全国の仲間と語らって地元へでかけ市と議会に強く働きかけた。
 地元紙「宮崎日日新聞」でも「先進的な条文を削除 同性愛者ら抗議へ」と大きく紹介された。これは、日本のフェミニズム史からみると、伝統保守の側からの揺り戻しのエポックメーキングな出来事であり、山口智美他『社会運動の戸惑い』(勁草書房、2012)にも1章が割かれている。
 他にも、それまで東京で開かれていたプライドパレードを関西で持とうと、尾辻自身が事務局長を引き受けて、その年の秋に実現することができた。その後、今はレインボーフェスタというイベントの中で続けられている。
 また、ゲイ雑誌「バディ」でコラム「尾辻かな子の虹色通信」の連載を開始。初代担当編集者は今やテレビ・ラジオで活躍するドラァグクイーンのブルボンヌこと斎藤靖紀で、彼とは東京プライドパレード前夜祭の司会も一緒にした。
 このように、2005年の夏、出版によるカミングアウトをしてからの尾辻は、実に精力的にLGBTの運動に種をまいていった。そして、前回紹介したように政治活動にも前のめりになりながら。思えば、つい5年前はインターンとしておそるおそる政治の世界に足を踏み入れたばかりだった。
 高校に入って空手を始めたときもそうだったが、最初は後ろにいたのが気が付くと先頭に立っている。政治家・LGBT活動家としてもしかりで、それが尾辻かな子をさらなる政治の高みへ向けた挑戦へと向かわせることになる。(本文敬称略)
(つづく)







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