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評者◆秋竜山
活字の音とは作者の言葉、の巻
No.3189 ・ 2015年01月10日




■片岡義男『歌謡曲が聴こえる』(新潮新書、本体七六〇円)。で、私が特に面白かったのは、まず歌詞があって、それを歌手が歌い、その歌をまた活字で歌い方の講義をするということ。美空ひばりが歌うのだから、誰でもわかるというもの。あの、ひばりの歌声は頭の中にこびりついている。面白がるものにとっては、こんな面白がりかたがあるのか、これも一つの発見かもしれない。美空ひばりの歌は、さかさまに歌っても美空ひばりだろう(聴いたことないけど、そう思わせてくれる。誰か実験してみせてくれないだろうかねぇ)。
 〈「ここに幸あり」という歌を僕は選んでみた。「カバーソング コレクション 美空ひばり」のなかに、一九七六年、ひばりが三十九歳のときの録音だ。〉(本書より)
 ひばりが「ここに幸あり」を歌うとこーなると、活字で解説する試みである。ピアノとか楽器の音がするわけでもなく、活字があるだけ。活字の音とは作者の言葉。著者片岡義男さんの声ぞあるのみ。
 〈ひばり要素、と僕が呼ぶ技術的な特徴が、歌のそこかしこに顕著だった。どう説明すればいいのか難しいが、歌詞の冒頭、「嵐が吹けば 雨も降る」の部分では、「アラシ」と「バ」、そして「ア」から「メェ」とリエイゾンした結果の「モ」など、ひばり要素の連続だ。「なぜ険し」の「ワ」もそうだ。「君を頼りに私は生きる ここに幸あり青い空」の部分はすんなりとしていて心地良いが、それでもなお、「幸あり」の「ア」と、「青い空」の「ア」は、なぜこうするのか、という聴き手である僕が発する問いに、そうせざるを得なかったからだろう、と自分で答えた。〉(本書より)
 私には、「わかったような、わからないような」である。たぶん、わかる人にはわかるだろう。わからない人にはわからないだろう。私には、そこのところが面白いのである。なにが面白いかというと、喜劇の舞台をみているような気分になってくるからだ。「バ」とか「ア」とか「メェ」とか、これをひばりの歌で聴くと、ハッキリとわかってくるのだろう。
 〈「蘇州夜曲」では面白い発見があった。(略)
 君がみ胸に抱かれてきくは
 夢の船唄 恋の歌
 水の蘇州の 花ちる春を
 惜しむか柳が すすり泣くひばりらしさの技術が発揮される部分は、「抱かれて」の「テ」、「船唄」の「ウタ」、「恋の」部分の「イノ」、「花ちる春」の「ハナ」と「ハル」、そして「すすり泣く」の「リ」だ。「燦めく星座」の歌いかたでは、また別の発見があった。低い部分で見得を切る技術が譜面で見ると文字どおり低い音のところで、発揮されている。〉〈「山小舎の灯」でも発見があった。(略)「山小舎」の部分で、「ヤマ」と「ハ」に、ひばりらしさの強調がある。〉(本書より)
 美空ひばりを語る時、誰もが自分の美空ひばりを持っているから、熱がこもる。ひばりについてすべて強調したいのである。十人が十人とも違ったひばりを語りだすかもしれない。本書で私がやたら面白かったのは、〈面白い発見があった〉というひとことである。発見という言葉のもつ面白さの発見でもある。







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