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評者◆小嵐九八郎
死を越えられるはずもない性愛の行方
あしあと
勝目梓
No.3188 ・ 2015年01月01日




■かつては漫画と雑誌の編集をやって、今は引退しているK君、Y君と新橋のガード下で昼間から飲んだ。今どき民族主義の煽りに乗る風潮や、歴史的大経験が風化してしまうことへの我ら老人の怠慢と責任を酒の肴にしているうちに、K君が女性遍歴の自慢めいた振り返りを言い、現在の持てなさを嘆いた。Y君は七十寸前、マル秘で愛人がいたことは当方は知っていたけれど、「恋ごころ、次に背反の罪深さ、そして一夫一婦制への怨み、そして、みんな終わり、とどのつまり性愛って、むしろ渇いた心そのものだったのかなアと……でも、よく解らねえよな」と呟いた。あ、そう。
 性愛について俺はまるで無知ではないし、活動家のピークの時に野坂昭如氏の『エロ事師たち』を読み、もしかしたら政治や革命“ごっこ”より文学の方が根本を突くのではとか、大江健三郎氏の一冊に一度は出てくるかなり凄い性について人類史の不可欠の問題に真向かっていると頭を垂れている。
 ま、しかし、七十歳となり、最も重大なテーマと知りながら、どうしても、けったるくなったり、面倒臭いと感じたり、避けてしまう。つまり、そのう、青春時代は精神の焦がれと性欲への滾りの不一致に悩んだりしても、とどのつまり、生殖として子どもを生むことにより、幻としても“聖なる”こととしてあり、老いれば燃え尽きて当然と居直っている。
 「でさ、読んだんだ、勝目梓さんの『あしあと』っつう短編連作集を。僕はSEXを考え直したな。大老人は、好色を越えて業に行くんだなって」とK君が声高に言った。「読んだか、Kも。助兵衛と、命と、死を秤にかけてかけ切れねえ、凄みだよな」とY君が続けた。慌てて、帰りに書店で買った。
 その勝目氏の『あしあと』は既に今年四月には出ていた。死を越えられるはずもない性愛なのに、ぎりぎりの狭間に揺れ、せつなく、どこかへ行く。とりわけ、「封印」、「あしあと」の短編は、戦争のどでかい傷がゆくゆく再び疼く名作であろう。







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