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評者◆たかとう匡子
五十年前の過去/五十年後の未来――特集「わが第一歌集Ⅰ 昭和三十年~昭和四十九年」(『現代短歌』)、埋田昇二「静岡県で活躍した詩人たち――大正、昭和初期、戦後―静岡県詩人会結成まで(『文芸静岡』)
No.3186 ・ 2014年12月13日




■総合雑誌『現代短歌』十一月号(現代短歌社)が「わが第一歌集Ⅰ 昭和三十年~昭和四十九年」を特集している。この雑誌にかぎって、ということではないが、これは面白かった。冒頭の清水房雄、宮英子、岩田正に聞くというインタビューの構成がよかった。第一歌集だから、どの人たちもそれぞれに若い頃の出版だから、ゆうに五十年は経っている。逆に考えたら、高齢社会のおかげもあってお互い五十年後の未来からその頃の自分をみることができているというわけである。ともかく、予期しなかった未来からの回想という意味をこめて、この企画は面白い。そのあとはアンケート形式になっているが、徹底してインタビューにした方が直接生身の分より迫力が増したのではないだろうか。
 『文芸静岡』第84号(静岡県文学連盟)埋田昇二「静岡県で活躍した詩人たち――大正、昭和初期、戦後―静岡県詩人会結成まで」。こちらも「特集・詩」を組んでいる。こうして見ていくと、半世紀も前の回想にウエイトがかかるにつれ、こんなふうな特集自体、同人誌の危機かも、昔の方が元気で活気があったことの証明ではないかと思えて少々寂しくもなってきた。それを補うのがこの企画のように静岡県の詩の状況に徹底して、地元(地方)から掘り起こすという作業の一貫性だろう。文学史、文壇史も中央あるいはジャーナリスティックな視点からばかりではなく、地方からの視点をしっかり入れて、そのうえで(地方の積算のうえで)書かれる時代がきているようにも思った。
 『午前』第6号(午前社)神品芳夫「リルケと立原、その相性は?」はテーマそのものはそんなに新しいものではないが、日記に書き込まれていたままになっていたリルケの詩を冒頭で紹介し、その詩の立原道造の関心度について視点を変えながら綿密な考察を試みた評論。よく練られていて、論の展開の仕方にも興味を覚えた。
 『じゅん文学』第81号(じゅん文学の会)若草田ひづる「桜笑う」は樹齢二百年以上という桜の巨木が八本もある大きな庭のある家に住む夫婦が、当時六歳だった一人息子を庭から飛び出して交通事故に遭って失くした。妻は自分の不注意を悔い、やる気を失って、自分から離婚を言い出して実家に帰ってしまうが、時には線香を上げに立ち寄る。別れたけれど夫が嫌いではない。辻褄は合うが別れるという論理は成り立たない。夫婦で一緒に悲しめばいいのではないかと思った。息子と同じ年の近所に住む少年を登場させて息子の幻影に重ねたり、満開の桜に魅せられてやってきたこれから結婚する若い男女も登場させて、プロットとしては納得するが、どうもこのごろの作品、簡単に別れさせるものが多い。もっと夫婦の苦悩として書けばいい。ただこの点を抜きにしたら文体もさわやかで、よい仕上がりになっていると思った。
 『文芸長良』第29号(文芸長良の会)藤川五百子「神楽ばやし」は婚活サイトへアクセスして、高学歴、高収入、職業医師、動物好き、性格は優しい、年齢四十一歳という条件に魅かれて結婚した年齢差十七歳という若い女性がヒロイン。ところが価値観から生活様式からすべて不一致で、子どもは出来たけれど、その子は検診で発達障害とわかり、結局別れる話。しかし体面上は別れたのではなく同じ家に家政婦として住み、手切れ金ももらい、家事労働として時給ももらいながら、つまり家庭内別居ではなく、同居離婚しているという内容だ。夫婦の食い違う状況が縷々述べられて進行し、思わず最後まで読まされてしまったが、惰性で結婚したために生まれた子どもが発達障害だというあたり自分を棚上げにしたご都合主義も目立つ気がする。男の言い分はよくわかるが、女の視点をもう少し書き込んでほしかった。サイトの条件だけでなぜ結婚したか。夫婦の価値観が違うことが解った段階で、妻はお金があるに任せて買い物放題、育児放棄に近い状態をするなど、およそいい加減な生活の繰り返しなのに、いっこうに自己批判しない。なんとなく檀一雄の『火宅の人』など思い出したが、あれだけの放蕩にかかわらず自己否定に満ちている点、学んでみるのもよいのではないだろうか。
 『南風』第36号(南風の会)二月田笙子「長い夜」は昔ふうの木造家屋で、結婚したもののプライバシーはなく、姑に寝所をのぞかれたり、そんなこともあって、夫の求めを拒否しつづけたり、夫との夜がテーマ。若干意見がないわけではないが、戦前までのこの国では大家族主義で、おまけに部屋ごとの鍵などぜんぜんなかった。そのひずみは多くあり、ここをこう丹念に書き込まれるとかえって新鮮だった。今のようにプライバシーが先行する時代だからこそ、近代社会以前のふすまと障子だけの住宅での物語の展開はそれ自体が夫婦生活の破綻にもなる。今書いているからそこが面白いと思った。
 『驅動』第73号(驅動社)奥西まゆみ「ふたつの箱」はカタチの上からいえばメタフィジカル詩。語り口調で、全部ひらがなで一連構成で、こういうカタチもあるかなと思わせる。メタフィジカル詩というのは難しいと思うが、それをひらがなで書いているのがこの詩のよいところだと思う。ただ最後の三行は無用。
 『玉繭』は創刊号。(NHK文化センター神戸教室)エッセイ同人誌だが、伊勢田史郎の典型的な抒情詩「春の愛しみ」が巻頭にある。「大気が きらきら 輝いてみえる/―はなびら が 見てごらん 天狗風で/あんなに散って……/川幅いっぱい になって 豪奢に ゆっく/り 流れ下っていく 花筏」詩の言葉はいつもにかわらず元気で若々しい。同じ神戸在住。伊勢田氏の健在を見たので紹介したい。
(詩人)







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