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評者◆内堀弘
ものを見る眼―― ヘーゲル・宮澤賢治・赤瀬川原平
No.3186 ・ 2014年12月13日




■神田古本まつりが終わると秋はいっそう深くなる。そういえば、今年は会期中に木枯らし一号が吹いた。
 「ヘーゲル自筆の書き込み本、神田の古書店で発見」と大きく報じられた。一八〇一年に出版された自著で、巻頭に横文字がビッシリ書かれている。これがヘーゲルの自筆だった。古本まつりの翌週、神田の洋書まつりでその本が展示された。
 ヘーゲルの没後、奥さんは蔵書を古書店に売ったそうだ。本だらけの家がこれでスッキリしたと(これは想像)。蔵書の行方は古今東西似たようなものだ。その一冊が二百年の後に東洋の島国の古書の街にたどり着いた。展示された本を見ても私には「ヘーゲル」という活字の方だって読めないのだが、ペン書を「おっ、これはヘーゲルかもしれない」と見る人がいる。ヘーゲルまで掘り出されるのである。
 その翌日、千葉の秀明大学で「宮澤賢治展」を観た。宮澤賢治は、近代文学のなかでも自筆資料(書簡葉書とか署名本)が最も少ない。ここでは盛岡高等農林学校時代の同級生に宛てた宮澤賢治の自筆葉書、書簡などが公開された。去年、この資料の一部がやはり東京の入札会に出た。「賢治が出るのは奇蹟だ」なんて、私は生意気なことを思ったものだが、でもそれが何なのかは分からなかった。解説のパネルを読み、それが本当に奇蹟だったことを知る。
 古書の市場には、とんでもないものが不意に姿をあらわす。長年の経験や、惚れ惚れとする度胸でそれを手にする人がいる。掘り出し物というのは、結局ものを見る眼だ。もう少し見えるようになりたいと、いくつになっても思うばかり。
 宮澤賢治展の帰り、千葉市美術館で「赤瀬川原平の芸術原論展」を観る。「宇宙の缶詰」の現物があった。市販の缶詰を開け、中身を出す。ラベルを剥がして内側に綺麗に貼り直す。そして開けたふたをハンダで密封する。その瞬間、私たちの世界は缶詰の内側になる、というのだ。ものを見る眼の鱗がハラリと落ちる。私は世界の内側にいるが、しかし私の中に世界はある、ということか。なんだか古本屋の在りようによく似ている。







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