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評者◆小嵐九八郎
若き吉本隆明、柄谷行人氏並みの著者
永続敗戦論――戦後日本の核心
白井聡
No.3184 ・ 2014年11月29日




■この十数年、俺の小説は売れず、原稿料も上がらず、困ったもんだと感じている。しかし、小泉政権が手配師を合法化するみたいな法律を作ってから、社外工、パート、非正規社員とやけに増え、みんなしんどそうで我慢とも考えていた。そういえば安い労働力を求めて海外へと工場を移していく資本も多い。
 振り返ると、ソ連が崩壊するなど毫も予測できなかった1975年頃、当方も青く未熟、新左翼の党派に属していた時、資本主義の生産様式は「労働生産力が増せば増すほど利潤率は傾向的に低下する」という癌的宿命を持ち、これを防ぐには、搾取度の増大、賃金の引き下げ、生産手段に掛かる金の節約、失業者の増加、海外貿易などが必要だけど、とどのつまり儲けの率は減りに減るなんつうマルクスの理論を信じていた。もしかしたら、これだけは正しいのかなと老いて再び考え、でも、経済学に無知だし忘れかけていた。
 ところが秋、本屋で、ぺらぺら捲っていたら、「利潤率の傾向的低下」の文字のある本が目に飛び込み、かなり難しそうだが買ってしまった。『永続敗戦論――戦後日本の核心』という題だ。
 中野重治の言葉を引いての『さようなら原発10万人集会』(2012・7・16)での大江健三郞氏の「私らは侮辱のなかに生きている」から出発し、ごく真っ当な怒りの感性を背負い、“敗戦”を“終戦”といいくるめ国体の維持と無責任を本質とする親米保守の支配のあり方、アメリカの冷徹な計算への屈伏、“平和と繁栄”に敗戦を忘れてきた人人、左右両翼の幻想と甘えを、鉈のような刃で振り下ろしている。世界史を含めた日本現代史の分析の論なのだ。結語の「各人が自らの命をかけても護るべきもの」には、いい齢をして、久し振り、実に五年振りほどに、涙を伴う感激に陥った。まだ若い三十七、八歳の著者の全体論と各論の分析の広さ深さと的確さは若き吉本、柄谷氏並み。
 偶である、この本に、角川財団学芸賞が与えられたと十月十八日の新聞で知った。この論に対して賞をあげたことで、賞が確かなものと知った。排外主義者も必読の書で、うう。








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