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評者◆殿島三紀
昔もいまも心は子ども‥‥‥監督・脚本 デスティン・クレットン『ショート・ターム』
No.3183 ・ 2014年11月22日




■『まほろ駅前狂騒曲』『マルタのことづけ』『100歳の華麗なる冒険』『嗤う分身』『ショート・ターム』を観た。
 『まほろ駅前狂騒曲』。三浦しをん原作の「まほろ」こと町田を舞台にした便利屋シリーズの続編である。監督は大森立嗣。前作『まほろ駅前多田便利軒』よりバージョンアップしているが、前作の「お金はないけど、こんなの作ってみました」の方が良かったかも。
 『マルタのことづけ』。クラウディア・サント=リュスの監督デビュー作。天涯孤独な主人公クラウディアが病院で出会ったシングルマザー・マルタとその子どもたちと暮らした2年間を描いたメキシコ映画。死が迫ってもなお楽しく逞しく生き、家族のいない主人公の支えになるマルタ。メキシコ版メメントモリとでも呼びたい作品。監督自身の体験から生まれた実話である。
 『100歳の華麗なる冒険』。スウェーデンの大ベストセラー「窓から逃げた100歳老人」を映画化。監督はフェリックス・ハーングレン。老人ホームから逃げ出したおじいさんのロードムービーでありながら、ロシア革命からスペイン市民戦争、第2次世界大戦から東西冷戦時代の彼の意外な活躍を描く。時空を駆ける痛快冒険映画だ。100歳になっても逃げ出せるよう足腰を鍛えておきたい。
 『嗤う分身』。イギリスの若き鬼才リチャード・アイオアディ監督がドストエフスキーの初期作品『分身』を映画化。時代も国も定かではない薄暗い世界に展開される不気味ワールド。思わず浮かぶシニカルな笑いと昭和歌謡のBGMの奇妙なバランス。笑えるドストエフスキーもあったのか。
 そして、今回ご紹介するのは『ショート・ターム』。親の虐待やなんらかの家庭問題によって、心に傷を持つ子どもたちが短期間身を寄せるシェルターを舞台にした映画である。にっちもさっちもいかなくなった子どもたち、そのケアにあたる職員を描いた作品だが、単に世話をする側、される側が展開するヒューマンドラマといった説明では言葉不足になる。10代という年齢からはあまりに遠くに来てしまった自分、さらに馴染みの薄いグループホームで展開される話なのになぜか心が騒ぐ。
 監督は本作が長編2作目となる新人デスティン・クレットン。脚本も書いた。実は、本作、彼が大学卒業後、問題を抱える10代のためのグループホームで2年間働いた実体験から生まれたものだ。説得力があるのもうなずける。ホームで暮らす子どもたちのキャラクターも丁寧に描かれ、同時にケアにあたる職員たちの過去、そこからよってきた性格にも深く斬り込む。作中に登場し、無神経な言葉で少年を怒らせる新人職員は監督自身である。世界中で30もの映画賞を受け、50の映画賞にノミネートされた。
 その日が初の勤務になる新人にホームから逃げ出した子どもの話を聞かせる先輩職員。実は彼、その時ひどい下痢腹で逃亡者に追いついたはいいが悲惨な結末に、などと新人を励ましつつ脅しているのだ。ケアマネージャーも出勤し、朝のおしゃべりタイム。そこへ鳴り響くサイレンと、奇声をあげながら逃げ出していく少年。
 観客はここでつかまってしまう。正直に言う。ティーンエイジャー? シェルター? 関係ないよ、と思っていた。間違っていた。
 身体は大人。アメリカのティーンはとりわけそうだ。だが、行動は屈折している。親に傷つけられた幼い心を抱え込んで生きている。ケアする側は指導や分析ではなく、寄り添うことで彼らを守っているが、彼らもまた内奥に傷ついた幼い心を隠している。ティーンたちのグループホームというと『金八先生』的展開を連想しがちだが、違う。すっかり大人顔して生きていても自分もまた傷を負った心に蓋をして生きていることを思い出させる映画だ。
(フリーライター)

※『ショート・ターム』は、11月15日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー。







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