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評者◆ベイベー関根
「トキワ荘」伝説に興味ない人にこそ読んでほしい本。
烏城物語
森安なおや著、漫画家・森安なおやを岡山に呼ぶ会編著
No.3182 ・ 2014年11月15日




■まあふつうそういうもんだと思うんだけど、このコーナーでは、なるべく新作を取り上げるようにしてんだよな。もちろんご存じのとおり、半年くらい遅れたりすることもあるけどね、書きだめしてても刊行ペースの問題があったり、作品を発見しそこねていたり、あるいは単に原稿書くのがメンドくさかったりして。
 しかし、今回の作品は例外的にちっと古いんだよな。出たのが1997年なんで。ちっとどころじゃないといわれるかもしれないが、2012年に重版されてるんで、まあ2年ほど遅れたと思ってくんねえ。
 で、その特例扱いの作品は何かというと、森安なおや『烏城物語』なんだな。誰それ? いや、手塚治虫とかトキワ荘伝説に興味がある人だったら名前を聞いたことはあると思うんだな。『まんが道』でいえば、あの「キャバキャバ」って笑う人ね。トキワ荘伝説の中では、人に迷惑をかけてばかりだがなぜか憎めない男、そしてマンガ家として成功しそこねた男。
 成功しそこねたとはいっても、貸本マンガを何冊か出したりしてはいたんだけどさ、自分が納得できるものをと思うばかりに〆切などは二の次にしてしまうんで仕事が来なくなってしまうらしい。
 で、そんな森安の30年ぶりに出した単行本が、この『烏城物語』というわけだ。といっても、それが15年以上前なもんで、帯に藤子・F・不二雄とか石ノ森章太郎とか赤塚不二夫の推薦コメントが載っているのがまた泣かせる……。
 渡し守の銀二郎は、身投げした女の遺児、進一を育てているが、ある日調達馬喰の虎吉を川に放りこんだために捕えられてしまう。代わって進一の面倒を見ることになるのは、銀二郎と愛し合っていた呉服屋の娘涼子。銀二郎は獄中で果て、進一は彼の悲願でもあった一中入学に向けて勉学に打ち込み、涼子はそれを陰に陽に支え続ける……。
 という話なんだけど、このマンガの主役はむしろ風景だね、森安の郷里、岡山の。スクリーントーンなどいっさい使わず、肉筆で再現されたこの戦前の風景! よくマンガを読むのに時間がかかるっていう人がいるけど、これはホントにセリフの少なさのわりに時間がかかるよ。ひとコマひとコマ一枚絵みたいな完成度だから、全然読み飛ばせないんだ。その中に、肉体のエロスをはらんだ登場人物たちが、親子の、そして男女の情愛をかわしあうというね……マジでぜひ多くの人に読んでもらいたいなあ。併載作「小さな河の水映り」も抒情と残酷に彩られた傑作!
 ただこの本、残念ながら、ふつうの本屋さんでは取り扱いがないので、ネット通販を利用してつかあさい!
 森安は本書初版刊行の2年後に逝去。その人生については、伊吹隼人『「トキワ荘」無頼派 漫画家/森安なおや伝』を参照のこと。こちらの併載作、貸本期の少女マンガ「赤い自転車」も必見だ!

※本書についての連絡先は、発行者代表・松下邦夫(岡山市出石町2‐3‐6、℡086‐221‐3782)。







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