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評者◆久禮亮太(あゆみBOOKS小石川店)
もっと好きに音楽をやろうよ!
親のための新しい音楽の教科書
若尾裕
No.3182 ・ 2014年11月15日
■この本、書名に「教科書」とあって、一見して教条的、説教臭い何かなのではと思わせますが、実際には、アナーキーなともいえるくらいに自由な音楽を求める議論を展開しています。著者はおもに音楽療法の手法やアドルノの音楽社会学、カルチュラル・スタディーズ、文化人類学を援用しながら、「かたくるしいもの」になってしまった音楽を、どんどん解きほぐしていきます。私はこの本を平積みにして、「ポストモダン・アカデミック・パンク!」とポップに書きました。
たとえば、著者が音楽療法の現場で出会った自閉症者の奏でる音楽について。彼らの音楽では、ひたすら同じ音型を反復したり、ほとんど空白のような、ぽつりぽつりとしか音のない音楽を奏でたりすることによく出会うといいます。それに、ひとと合わせようともしない。それでも、音楽が好きなのです。つまり、いわゆる「健常者」の定型的な「楽しい音楽」とは対極の音楽の世界がある。しかしどんな人の中にだって、それらの対照的な音楽は、まざりあって存在しているし、度合いの問題なのだと。 著者の問題意識を、さらに引用してみます。 「世界中のすべての音楽が商品、つまり消費するための対象になってしまったことによって、逆にひとりひとりがそれぞれ、自分の音楽をすることが困難になってきたともいえます。はずかしい音楽を自分でやるのはリスクが高いから、リスクのない聞くという代償行為によって音楽体験を済ませる……」 「……音楽をするはずかしさの原因には、わが国における明治以後の音楽教育によるものと、西洋近代の音楽文化におけるアマチュアの排除という問題のふたつがあるようなのですが、いずれにせよわれわれの素直な音楽の意欲というものは、おおいに阻害されてしまっている」 つまり、私たちと音楽をめぐるある種の「疎外論」ともいえる問題提起の本なのです。 音楽史や文化研究としては強引とも感じられる展開もありますが、そうでもして多くのしがらみに絡めとられた「音楽」を解放して、私たちにもっと好きに音楽をやろうよと呼びかけているように感じました。 さらに著者の問題意識は、音楽教育の背後にある社会教育にも及びます。「学校というものが……いまのネオリベ的世界の前提であると気づかされる」と言い、「現在の制度教育への(真っ向から)批判ではなく……そういった(制度と)距離をとる意識」や「親のための教育学」が重要になってくるともいいます。 学校制度によらず学びたい人の好奇心に応える。音楽をはじめ、生活を美しく豊かにするための創意工夫を求める人に刺激を与える。それらは、私自身が本屋の仕事を通して実現したい理想でもあります。この本は、私にとっては、自分の仕事を勇気づける熱いメッセージでもありました。たとえば佐久間裕美子『ヒップな生活革命』(朝日出版社)と並んで、ライフスタイルを考える本として売れ続けてほしいと思います。 ところで、この本の出版元サボテン書房の代表・浜田淳さんは、ご自身でも本を書いています。その著作『ジョニー・B・グッジョブ』は、スタジオ・ミュージシャンをはじめ、エンジニアやイベント・プロモーターなど、音楽業界の片隅で働く「市井の人々」の言葉を丹念に集めたインタビュー集で、スタッズ・ターケルの『仕事!』を思わせる面白い本です。また浜田さんは、2004年~06年に3度開催された伝説的音楽イベント「ローライフ」の主催者でした。当時のアングラ・シーンを代表するようなミュージシャンを集めた、自由で手作り感にあふれたはちゃめちゃなイベントでした。 浜田さんの一連のお仕事には、音楽と生活を分けることなく自分のやり方でまとめ上げたい、楽しみ尽くしたいというような思想が、一貫してあるのではないかと想像しています。サボテン書房としての第一作のこの本にも、同じ思いを感じとれます。この新しい出版社のこれからの活動も楽しみにしています。 |
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