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評者◆秋竜山
アァ、それから四十年、の巻
No.3180 ・ 2014年11月01日




■そーいえば、次のような歌い出しの歌謡曲があった。♪これっきり、これっきり、もう、これっきりですかー。モモエちゃんだ。これっきりとは、これいかに……。なんとも妙な歌詞である。ナゲヤリ的というか、ふてくされたような大人びた無表情の、少女を卒業したようなしないような。そして、この歌には、まるで時代がうんだようなフンイキの気すらした。当時、出す歌、出す歌、約束されたように大ヒットし、この歌もそうだった。ところが、なにを考えてのことか、歌手生活を引退してしまった。突然に「これっきり」にしてしまったのであった。今でも、なにかの拍子に、このフレーズを思い出す。なんという題名の歌だったか、そして中身はどのような意味の歌詞だったのか。「これっきり」だけが印象が強い。「これっきり」といわれると人情として、「もっと、もっと」と、いいたくなるものである。漱石に、「それから」という有名な作品がある。この題名も、「それから、どーした」と、いいたくなってくる。考えてみると、漱石も「それから、どーした」と、いう題名にすればよかったのでは。どーしたも、こーしたもない、よけいなお世話とはこのことである。夏目漱石著、矢島裕紀彦編『漱石「こころ」の言葉』(文春新書、本体七三〇円)では、〈234のユーモアと真理に満ちたメッセージを厳選した名言集〉と、いう。名言集であるから、いいとこ取りであり、なんとっても短い文章であるのがいい。「まず、この名言を押さえておいて!!」それから長い作品にかかろうという、魂胆でもある。時間のない世の中で、トクをしたような気分すらしてくる。「きみ、漱石を読んだことあるかい」「ある、ある」「ホー、そうか読んでるんだなァ。僕も読んでいるけど」「僕は、あの作品がもっとも好きだ。智に働けば角が立つ。というのだ」「そーそー、僕もだ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ」「うん、そーだったね。とかく人の世は住みにくい」「草枕だったね」「うん、そーだったね」。この二人、草枕の作品のここだけを暗記していて、一度も読んだこともないのに読んだ気になっている。そんなものかもしれない。「アァ、あれから四十年」と、いって笑わせるのが、漫談家のきみまろである。きみまろが、「アァ、あれから四十年」と、いっただけで気の早い客は、もう笑っている。これが爆発的な人気というものである。いっそのこと、漱石も、「アァ、それから四十年」と、やれば、当時、爆笑王になっていたかもしれない。「それから」というクソまじめな作品も、(これでいいだろうけど)違ったものになっていただろう。今では遅過ぎるか。「アァ、それから百年」では、聞くほうがついていけないだろう。
 〈人間はある目的を以て、生まれたものではなかった。これと反対に、生まれた人間に、はじめて、ある目的ができてくるのであった。最初から客観的にある目的をこしらえて、それを人間に附着するのは、(略)〉(「それから」、本書より)
 名言というものは何年たとうがちっとも変わらないものである。と、いうことは、人間そのものがちっとも変わらないということか。名言に出あった時、そう思うのであって、ふだんはそんなこと、考えもしないものだ。







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