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評者◆岩崎書店・岩崎弘明代表取締役会長兼社長
第四回 ―欧米との比較にみる―日本の出版業界の現状と課題
No.3180 ・ 2014年11月01日




■岩崎書店の岩崎弘明代表取締役会長兼社長は9月28日、神奈川・海老名の海老名市立中央図書館で日本の出版業界の現状と課題をテーマに講演し、出版界支援のためのロビー活動の必要性を説くとともに、人口減に伴う売上減少を補てんするためにもコンテンツ輸出を振興すべきなどの持論を展開した。同講演は、同図書館が主催する「出版社と図書館をつなぐシリーズ」(企画・図書館流通センター)の4回目として行われたもの。岩崎会長兼社長は自身の豊富な海外経験をもとに、世界と日本の出版界の差異を明らかにし、出版界の活性化策について提言した。その要旨は次の通り。

日本の出版界の現状

 2013年と2000年の日本の出版業界の市場について比較してみたい。
 出版社数はマイナス17%。13年現在、出版社の数はおよそ3700社あると言われている。そのうち、上位1000社くらいが年に5~6点を刊行し、それ以下の出版社は年に1点を出版する程度。
 取次会社はマイナス7%(3社減)の37社。その中でトーハン、日販という2大取次が市場の8割近くを占めている。その両社も苦しい状況。出版物では食えないので、トーハンは老人介護ビジネスに着手し始めた。
 書店に至っては、マイナス34%(7423社減)の1万4241社。販売金額をみても分かる通り、13年は30%減(2兆3966億円)の1兆6823億円。とくに、雑誌がすごい勢いで減っている。
 この約1兆6000億円の売上というのは大日本印刷1社あたりの売上と変わらない。ちょっとした大企業1社で、それくらい売り上げている。出版業界にはおよそ25万人が従事していると言われているが、それが束になって、ようやくこの売上だ。
 そうしたなか、出版社の給料は高く、書店は安いという格差がある。自由、平等をうたい、格差社会を否定する本を出しているが、一方で出版社の給料はものすごくいい。私が岩崎書店に入った頃には、「岩波、福音館じゃなくても、せめて岩崎書店の給料ほしい」という替え歌があった。アメリカでは、こうした出版社だけ給料がいいという格差は早い段階でなくなっていた。

東京五輪までに倒産版元続出か

 出版界の売上高のピークは96年で約2兆6000億円。翌年の97年から13年までで、1兆円減っている計算になる。97年は消費税が3%から5%に増税された年。これをきっかけに、毎年3~5%ずつ売上は減っていった。このままでは2020年に、今より3000億円(20%)下がって、1兆3000億円になるという予測もある。これを初めに言いだしたのは実はアマゾンだ。ただ、今年は落ち込み幅が予測以上で、2020年よりも早い段階で到達しそうだ。売上が今より20%減少する。どの会社も20%の余裕はないので、赤字の会社が増え、これからは書店だけでなく、出版社がなくなっていくのではないかと日々感じている。

欧米の書籍業界と比較して

 一方、欧米の書籍業界はどうなっているか。アメリカは08年と10年を比べると、5・6%アップ、イギリスも2・2%アップ、ドイツは1・2%アップ、フランスも08年以降の売上高は前年増を続けており、日本のようにこれだけ長期間にわたって減り続けている国は先進国の中ではない。どうして日本だけこうなってしまったのか。
 友人のアメリカ人にその話をしてみた。すると、「自分たちが本を読むのは楽しみたいからで、楽しみが急になくなるということはない。日本は本の楽しみを捨ててしまったのか」と言われた。僕なりに日本人の読書と欧米人のそれについて考えてみたが、やはり福沢諭吉の『学問のすゝめ』以来、実用書を読むという観念が日本人に根付いたのではないだろうか。さらに、入試などのために本を読むようになり、楽しんで本を読むという慣習がなくなってしまったのではないだろうか。

欧米とは異なる政府との関係

 日本の消費税が4月から上がったばかりだが、世界の消費税をみてみたい。イギリス、メキシコ、アイルランド、ノルウェーは16~25%の消費税がかかるが、書籍に対してはゼロ。ドイツ、フランス、スイス、イタリアなどでも、書籍は一般消費財にかけられる消費税よりも安い、軽減税率が適用されている。しかし、日本ではそうなっていない。我々出版社は団体として政府に働きかけているが、来年の10%への増税時に書籍への軽減税率導入も期待できない。
 考えてみてほしい。小学5、6年生の子どもが小遣いで本を買うときに、本には消費税がかからない、もしくは軽減されていれば、本は普通の物品とは違うと、本に対するイメージが変わってくる。諸外国では当たり前のようにこうした方針の下、軽減税率を導入している。それが先ほどの出版業界の売上が落ちない一つの要因でもある。
 韓国を例にとる。人口約4500万人と自国のマーケットが小さいため、出版する際には日本や台湾、インドネシアなどアジアでも売れる本をつくる。また、パジュという地域には出版社や製本会社などを集めた「出版団地」を設けている。フランクフルトなど海外で開かれる書籍の見本市等にも毎年24億円を出資して、韓国出版界を世界に広めようとしている。その意識は、韓国の出版社の団体が「韓国は東南アジアの出版のハブになる」と宣言しているところにもみてとれる。
 ほかに、オランダをはじめヨーロッパの国々は、自国の書籍を日本で翻訳して出版しようとすると、オランダ政府が翻訳費用を負担している。そういう事例はたくさんある。
 一方、日本は幸か不幸か、政府は一切、出版業界に金を出さない。読書推進運動などを支援する議員連盟もあるが、あれは議員のジェスチャーに過ぎず、金は一切出ていない。
 政府と組むと言論の自由を脅かされると危機意識を持つ日本の出版人は多い。だが、このままでは日本の出版業界は滅んでしまう。他産業のように、政府へのロビー活動をしないと、さらに出版社がなくなってしまう。本を読まない民の国は滅びるとも言われている。国を挙げて出版産業を支援する時期にきている。もちろん、出版の自由を守りながら、というのが前提での話である。

輸出振興策も必要

 日本もイギリスのように輸出振興策をとっていくべきではないか。日本は貿易立国なのに、本をほとんど輸出していない。その反省も含めて、岩崎書店は約2年前に新規事業部を設置した。よく、美しい日本語は英語に直しても分からないと作家さんは言うが、それは言い過ぎ。こういう状況を打ち破っていくべきではないか。
 弊社ではこれまで業者を通して版権を売っていたが、事業部が直接売るようになって売上が10倍に増えた。とくに、中国が日本の本の版権を買うようになった。ほかにも台湾、韓国は多い。最近ではタイとインドネシアも買うようになった。シンガポールあたりに日本の本の版権を売る会社をつくって新しいビジネスをしようと思うほどだ。

読書に関する日米教育の違い

 いま一番、本を読まないのが20代の若者と言われている。ケータイに忙しいのか、これは恐るべきこと。アメリカでは「ニューヨーク・タイムス」を一番読むのが20代で、次が30代と言われている。また、サラリーマンたちは今も分厚い本を読んでいる。そうなっているのは、アメリカの大学は、入学すると徹底的に国語を勉強するシステムをとっているからだ。日本もそうしていかないとまずいのではないか。
 アメリカのUC系列の大学が9校あるが、今年の海外からの留学生で一番多いのが中国で約3000人、次いでインド、韓国。アメリカが優れているという話ではない。アメリカの大学が世界の大学になっている現状で、日本人留学生がどんどん減ってきているのは世界に遅れるということだ。
 「ワシントン・ポスト」紙でも日本人は「グラスイーター」(草食動物)になったなどと報道される始末。これから日本の人口が減っていく中、活力のない日本が心配になる。それに、日本の赤ちゃんの出生数がついに今年、100万人を割る。人口が減るということは色んな意味で出版産業、とくに子ども向けの出版にとって大変なこと。そうした環境下で私たちは子どもたちの本をつくっている。







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