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評者◆古賀光生
西欧における極右の活動家のメンタリティ――使命感と優越意識、他の活動家との人間関係が、活動継続の理由
No.3179 ・ 2014年10月18日




■ヘイト・スピーチや排外的なデモの問題を考える上で、しばしば、ヨーロッパにおける、いわゆる「極右」政党、あるいは、右翼ポピュリスト政党の台頭が引き合いに出される。例えば、樋口直人の『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014)は、西欧における排外主義的な研究に関する膨大な研究蓄積を引用しながら、そこで展開された理論をふまえつつ、「在特会」の現状を分析する。
 ただし比較に際しては、分析の単位に注意が必要である。西欧における右翼ポピュリスト政党への「投票」という行為は、デモや運動に参加することとは、参加に伴う物理的・社会的なコストが大きく異なるためである。選挙における投票は、時間的なコストも小さく、投票先の秘密も守られる(これまでの調査から、極右政党への投票者のうち少なからぬ人々が、自身の投票先を明かしたがらないという傾向が指摘されている)。これに対して、運動に参加することは、時間やお金を費やし、自らの政治的傾向を周囲の人々に知られることで社会的な不利益を被ることも少なくない。そのため、日本における人種差別的なデモの参加者を理解するために比較対象となるのは、西欧における極右政党の活動家(militant)であろう。
 そこで、本稿で紹介するのは、クランダーマンスとメイエル編著の『ヨーロッパにおける極右活動家』(Bert Klandermans and Nonna Mayer(eds.)(2006)Extreme Right Activists in Europe,Routledge)である。本書は、フランスの国民戦線やイタリア社会運動など、西欧五ヶ国の、おもにファシズムなど歴史的な極右勢力との結びつきを持つ政党を分析対象とする。党の要職にはついていない活動家に対面のインタビューを行い、ライフ・ヒストリーを聞くことでこうした運動に参加した経緯と活動を続ける動機を質問して、157名から回答を得ている。
 これらのインタビューから窺えることは、まず、活動に参加した経緯の多様さである。例えば、家族からの思想的な傾向の継承や本人や家族の戦争等の経験は、活動参加の動機として最も典型的なものと言える。日本と同様に、一部の活動家らが語る「戦争の記憶」や「外国人の脅威」への認識は、必ずしも実体験に基づくものとは限らず、多分に極右的なイデオロギーに基づく現実認識に左右されている。ただし、すべての活動家がそのようなイデオロギーを有していると断ずることは難しい。例えばあるオランダの活動家は、自身の娘が家庭内暴力に直面した際の警察や労組の対応への不信感から既存の政治的権威を批判する政党に参加したと語るなど、一部の活動家は、極右政党への参加以前には積極的に政治には関わっていなかった。
 こうした参加の経緯とともに、党員らが活動を継続する動機が重要であろう。極右政党への社会の目は厳しく、多くの活動家は社会的な不利益を自覚しつつ活動を継続している。さらに、極右の活動に時間をかければかけるほど他の社会活動に割ける時間は乏しくなり、他の社会的な関係から自身を切断することとなる。それにもかかわらず、敢えて活動を継続している者たちが理由として挙げるのが、使命感と優越意識、および他の活動家との人間関係である。
 使命感と優越意識が表裏一体のものであり、正しいことをしているという信念は、しばしばそうした行動に興味を持たない他の人々に対する自身の優越という観念に結びつく。このことは、自らは同世代の「ディスコに通うことしか考えない」若者とは違うことをしていると語る、あるイタリアの若者の言葉に象徴されている。さらに、こうした意識は、同じ政治的な志向を持つ人々との共感を強める。極右的な政治観の持ち主は、一般社会ではそれを表明することが難しい。そのため、そうした思いを共有できる他の極右活動家とは、他の人々とは構築しがたい人間関係を結ぶことが出来る。あるフランスの活動家は、他の党員を家族に喩えている。多くの活動家は、物理的な負担以上に精神的な満足を得られるからこそ、活動を継続するようである。
 こうした傾向は、既に活動を傾斜させた極右活動家にとっては、社会的なスティグマすら活動の抑止に結びつくとは限らないことを示唆する。もちろん、こうしたスティグマから、活動への参加をとどまる者も少ないことは容易に想像できる。ただし、極右活動によって社会から疎外された活動家の「居場所」は、ますます極右政党に限定される。こうした場合に活動家らが党を離反すれば、これまでの人間関係の大部分を失うことになる。反対に、一部の党では、急進的な立場を強めて党の外部と衝突することが党内における声望を高め、他の党員からの賞賛に結びつく場合も少なくないという。
 こうした急進化は、政党としての支持拡大の足かせとなりうる。党指導者は、党員の求心力と外部からの支持拡大のディレンマに直面する。西欧の極右政党がしばしば分裂を経験するのは、このためである。
(比較政治学/二松学舎大学専任講師)







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