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評者◆小嵐九八郎
分厚いが「これっ」の短篇が、ぎっしり――『大江健三郎自選短篇』(本体一三八〇円・岩波文庫)
大江健三郎自選短篇
大江健三郎
No.3178 ・ 2014年10月11日




■当方の無知かも知れず、そうだったら勘弁してほしい。一九四四年生まれにとっては、中学に入学した頃から現在まで、人類の言葉の宝物を可能な限り掬い取って、安価に提供してくれてきた岩波文庫に対し、長かった人生的尺度で敬意以上のものを思う。《詩歌集》で「唐詩選全三冊」、《仏教》で「浄土三部経全二冊」、《宗教》で「コーラン全三冊」、《東洋思想》で「荘子全四冊」、《歴史・地理》で「コロンブス航海誌」、《自然科学》で「ビーグル号航海記全三冊」、《哲学・教育》で「方法序説」、「ルソー告白全三冊」、《経済・社会》で「党宣言」、おっと「共産党宣言」、「ドイツ・イデオロギー」などなどと。しかし、《現代日本文学》が、どうも、なのだ。せいぜい、三遊亭円朝から漱石を経て永井荷風まで。近代と現代をどこで区分するのかは論議があろうけど、「岩波文庫は、現代文学の値打ちがめくるめく変わるのを恐れ、出さない主義」との噂を聞いて五十年ばかりが経つ。
 でも、そろそろ、あの世へ行かねばならず、地獄の寸前で閻魔さまからのもしかしたら極楽ゆきの質問への答えを今から準備するとすれば、先の戦争を経て、かなりの試練を人人によって検証された確かな小説群はあると考える。出版年月無視で、「蟹工船」、「春琴抄」、「雪国」、「肉体の門」、「野火」、「黒い雨」、「地の群れ」、「エロ事師たち」、「海を見ていたジョニー」、「ポロポロ」、「楢山節考」、「砂の女」、「沈黙」、「死者の奢り」「飼育」「セブンティーン」「個人的な体験」「新しい人よ眼ざめよ」「洪水はわが魂に及び」――他にも、あるある。
 という中で、岩波文庫から、現代小説としては例外なのか『大江健三郎自選短篇』が出たばっかりだ。分厚いが「これっ」の短篇が、ぎっしり詰まっている。講談社文芸文庫なら3500円はしそうなので、得そのものである。何より、俺だって読み損ねていた「他人の足」という現代“オタク”若者すら性的に興奮し、その後に差別する者、される者の境界と峻別の壁が時代を匂わせ「あるっ」。







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