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評者◆内堀弘
風船舎の古書目録――尋常ならざる熱意と分厚さ
No.3178 ・ 2014年10月11日




■風船舎の古書目録10号が届いた。「特集青春狂詩曲=近代教育の諸相」。単行本のように分厚い一冊だ。
 古書目録とは古本屋が作る自店のブックリスト(在庫案内)だ。といっても四百頁に六千五百点も載っている。単行本を製作するような費用がかかっているはずだ。インターネットの時代になんと効率のわるいことか。でも、目を通せば、このカタチでなければ伝えられないものもあるとしみじみ思う。
 風船舎は三十代の若い夫婦で、この業界ではまだ新人だ。
 昨年の暮から春先にかけて、古書の入札会に教育関係の文献資料が出た。かなりまとまった量で、旧蔵者は明治から戦前の学校資料、校友会誌、名簿、報告書などを熱心に蒐めた人だった。どうしたことか、若い夫婦はこの文献資料を熱心に買いはじめた。もちろん、ベテランの同業と競るのだから、容易に買えるわけではない。それでも、二ヶ月ほどにわたって出品されたこの口にねばり強く向き合い、諦めなかった。しばらくして「金が尽きました」と言い残して、ピタッと入札会に顔を出さなくなった。
 それから資料に向き合い、夫婦で古書目録を作り始めたのだろう。デザインとかモダンとか絵本とか写真集とかではないから、「ちょっと素敵」な古書目録にはならない。しかも、近代教育史には全くの素人だ。
 目録が届いた日、私は夜中の二時ぐらいまでこれを読んだ。教育資料の中の無名な学生の言葉を丁寧に拾い、それが解説になっている。その引用は飽きることがない。
 たとえば松本の女子職業学校の校友会雑誌(昭和四年)は、売価二千円のものだが、ここに収録されている寄宿舎生活の記事を十五行にわたって縷々紹介している。あの膨大な量の、しかし紙片のような冊子にまで目を通し、興奮している。この尋常ならざる熱意に、分厚い紙の器はよく似合っていた。
 生き生きとした物語を編んだ。それを「教育」ではなく「青春」と名付けたのは、古本屋という仕事の静かな誇りが伝わってくるようだった。
 駆け出しの頃「買ったもので勉強しろ」と言われた。勉強すれば儲かるようになる。だから「とにかく買え」と。そうか、こういうことかと、今になってわかる。







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