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評者◆竹田恵子
多様性を祝う――『仲良くしようぜパレード』が喚起した感情/情動
No.3177 ・ 2014年10月04日




■2014年7月21日、『仲良くしようぜパレード(通称「仲パレ」)』(Osaka against Racism March)が開催され、主催者発表によると、1500名と昨年から倍以上に参加者を増やした。『仲良くしようぜパレード』とは、排外主義や人種差別に反対することを目的に開催されるパレードである(参考http://nakapare2014.wordpress.com/)。中之島公園を起点とし、御堂筋を経て元町中公園までのルートを筆者も共に歩いた。参加者の言説には、「一緒に」「楽しい」など、連帯と喜びを示す表現が多く見られた。主催者の一人であり、コーラー(パレードを先導するような言葉をマイクで拡散する役割)の凡さんのツイッター投稿には「朝鮮学校を襲撃した在特会は、幼い子供達に向かって「道の端っこを歩いてろ」といった。俺たちは歩いたぞ、多くの仲間と、御堂筋のど真ん中を!笑顔で歩いてやったぞ!どうだ!(後略)」とある(参考http://togetter.com/li/696237)。このパレードでは、なによりも、心ないヘイトスピーチに晒されてきた人々が、脅かされることのない日常を過ごす権利を当たり前に持っているのだと確かめられること、またそのような未来を手に入れるのだという意志を感じさせた。「仲パレ」は、よりよい未来を十分に想像させる力強さに満ちていたと思う。法や教育の整備といったヘイトスピーチへの制度的な対処と並び、このような試みの意義は大きい。
 「仲パレ」では、セクシュアル・マイノリティのシンボルであるレインボーフラッグやドラァグ・クィーン、韓国の花笠コッカル、ストリートダンス、また朝鮮王朝楽団の演奏やチマチョゴリをまとった舞踊団の民族舞踊など、視覚的にもわかりやすく「多様性を祝う」メッセージが伝えられた。力強く響くドラムに乗って体を動かし、一緒に歩く友人たち、またその日はじめて会った人々と身体を共鳴させ「一緒に歩く」という行為により、「共に」という連帯意識はさらに強くなるように思われた。一方でそれは「多様性を目指す連帯」、とでも言おうか、連帯ではあるが均質化された集団ではなかったということも、特徴的であった。当人が重要視するアイデンティティの上で、マイノリティに属する者もマジョリティに属する者も参加していたし、さらに言えば、「多様性を祝う」という目的のもとに、セクシュアル・マイノリティへの差別問題に取り組んでいる人々も合流していたのである。
 エイズ・アクティヴィズム団体であるACT UP(AIDS Coalition to Unleash Power)の研究を行ったデボラ・B・グールドは著書『Moving politics Emotions and ACT UP’s fight against AIDS』(2009年、The University of Chicago Press)において、運動参加者の感情(emotion)/情動(affection)が運動の生起に果たした役割が大きいと指摘している。グールドの定義では、「感情」とは「怒り」や「悲しみ」など既に分節化されたもので、「情動」とは未だそういった分類をされていない、心に湧き上がる何かである。グールドは、「エモーショナル・ワーク」と呼ばれるスピーチやパンフレットなどの文化的装置が、参与者の感情/情動を「怒り」へと方向づけ、これが運動の生起の要因となったというのだ。このように、「仲パレ」のような文化的装置は、参加者のみならず、沿道でパレードを見る人々の感情/情動を動かし、また方向付け、次のアクションへ導くのではないだろうか。
 このパレードが開催される直前、在特会に対する抗議(カウンター)活動を行っていた「男組」メンバーおよび関係者が逮捕されたということがあった(既に全員釈放)。しかし、対処されるべきは在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチを行っていた者なのではないか。本連載でも触れられているように、ヘイトスピーチに対抗する法的整備や対抗言説も十分ではないなか、公然とヘイトスピーチを「許さない」と述べ、行動を起こすことは必要であったと考える。2014年8月21日、国連人種差別撤廃委員会はジュネーブで行われた対日審査を終えた。8月29日の最終見解によれば、同委員会は、外国人およびマイノリティに対するヘイトスピーチに関連し、日本政府に対して集会の場における人種差別的暴力や憎悪の扇動について毅然とした対処を実施すること、ヘイトスピーチの発信や憎悪への扇動を行う公人に対して適切な制裁措置を実行することなどを求めている。日本国内でも、世論は徐々に、ヘイトスピーチの存在を認め、そしてそれを見逃すのではなく何らかの対抗措置が必要であるという方向に動き始めている。8月18日にはフリーライターの李信恵さんが、ネット上や街頭でのヘイトスピーチに対して、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と会長の桜井誠(本名・高田誠)氏、インターネット・サイトの「保守速報」運営者を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こした。さらに舛添東京都知事、橋下徹大阪市長などがヘイトスピーチへの対処を具体的に模索しはじめているようである。このような変化に様々な形態でのカウンター活動が果たした役割は非常に大きいと考えられる。「仲パレ」のような方向性だけではなく、カウンター活動のような「怒り」の表明としての行動が表裏一体となってこのような流れをつくっていったのではないだろうか。
 2014年11月2日(日)には「仲パレ」と類似した主旨の「東京大行進」が行われる。公式発表では、12時に新宿中央公園、水の広場集合だ(9月22日現在での情報)。どうか、一緒に歩いてほしい。あなたにも。
(メディア文化論、パフォーマンス研究、多文化共生論/お茶の水女子大学リーダーシップ養成教育研究センター講師〔所属機関研究員〕)







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