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評者◆秋竜山
ダメな浦島太郎、の巻
No.3176 ・ 2014年09月27日




■私の生まれ育った田舎の小さな漁村には、小さな竜宮神社がある。今でも田舎へ帰った時、その神社の前で腰をおろしたりして海をながめている。いやおうなしの浦島太郎の物語であるわけだ。海辺の漁村にはいたるところに竜宮神社を祭ってある。橋本治『古典を読んでみましょう』(ちくまプリマー新書、本体八六〇円)では、浦島太郎についてとりあげられている。私が浦島太郎でもっとも興味あるのは、なんといっても玉手箱である。その昔、私は浦島伝説を訪ねて丹後の国へ行くチャンスにめぐまれた。その時、やっぱり玉手箱についてであった。
 〈竜宮城で乙姫様と楽しい時間を過ごしていた浦島太郎は、故郷に帰って辺りの様子が自分の知っているものとは違っているのを不思議がって、乙姫様から「開けてはいけませんよ」と念を押されて渡された玉手箱を開けてしまいます。すると白い煙が中から出て、浦島太郎はあっと言う間に「おじいさん」です。〉〈白髪になって白い髭を生やした浦島太郎はびっくりして尻餅を突いているところで、絵本なんかは終わりです。〉(本書より)
 たしかに、絵本などはそれで終わっている。終わっていたからといって、子供の私などはちっとも不思議とは思わなかったし、それが浦島太郎の物語だから当然だくらいにしかとらえていなかった。その後、どうなったかなど考えもしなかった。実に想像力のない素直な子供であった。本書で面白かったのは次の文章だ。
 〈白髪のじいさんになるだけの「浦島太郎」を読んで感じるのは、まず「この人は他人の忠告に耳を傾けないだめな人だな」ということです。乙姫さんは、ちゃんと「開けるな」と言ってるのです。その忠告を守っていれば、浦島太郎は白髪のじいさんにならなくてすんでいたんじゃないかと思えます。浦島太郎は「人の忠告を聞かないだめな人」で、子供の時にこんな話を聞いてしまうと、「あなたもそうでしょう? 気をつけないと危ないですよ」と言われているような気になってしまいます。〉(本書より)
 そんな忠告をまにうけて聞いていたら、浦島太郎の話にはならないじゃないか!!なんて、素直でない子供もいたかもしれない。やっぱり話としては浦島太郎は絵本にあるような、ふさふさ白髪のおじいさんであり、ハゲ頭だったら浦島太郎役はつとまらないだろう。それに、玉手箱を開ける前の浦島太郎は本当の浦島太郎にはなっていない。玉手箱を開けて有名になったのだ。本書で面白かったのは〈「この人は他人の忠告に耳を傾けないだめな人だな」ということです。〉〈乙姫さんは、ちゃんと「開けるな」と言っているのです。その忠告を守っていれば、(略)浦島太郎は「人の忠告を聞かないだめな人」〉(本書より)
 田舎の竜宮神社の前で座りながら浜辺に打ち寄せる波を見ては、もし自分が浦島太郎であったら……、なんて思ったりする。女の「ダメよ」は「イイヨ」ってことでもあるというたとえがある。開けることもできない玉手箱を一生持って歩くのもどーかとも考えてしまう。捨てるわけにもいかないだろう。そして、「やっぱり」と乙姫さんは、いったことになるだろう。「ザザザ……ザブーン」波の音。







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