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評者◆添田馨
ここは如何なる血筋が支配する国にもあらず――薄汚れた国(3)
No.3175 ・ 2014年09月20日




■国の統治形態がどうあるべきかについては、様々な考え方があるだろう。だが、これだけは絶対にやってはならぬという禁じ手もある。そのひとつが個人崇拝だ。誰かを崇拝するのは無論勝手だ。だが時の権力者が、議会制民主主義の仕組みを隠れ蓑にしてそれと実態は同じことを国の政策として推し進めているとしたら、何としてでも止めさせねばならない。
 安倍晋三がいま総理大臣として行っている一連の政治政策は、そのほとんどが祖父・岸信介の顕彰行為の意味を背後に巧妙に隠している。「憲法改正が私の歴史的な使命」だと公言する裏には、まさにこうしたプライベートな動機ばかりが透けて見える。「名にかへてこのみいくさの正しさを来世までも語り伝へん」――これは昭和二十年に岸が収監直前に詠んだ歌である。飽くまであの戦争は正しかった、という趣意だ。岸がA級戦犯容疑者だった事実は戦争推進側の人間だったことを告げているから、本人がこう思うのも無理はない。
 だが何度も言う。戦争が正しかったかどうかが問題の核心なのではない。あの戦争による膨大な数の死者たちの失われた命の重量をどう贖って、それ以後の世代にどう橋渡しするかが“戦後”の普遍的かつ喫緊の課題だったはずである。今もその積み残した歴史の荷重に寸毫も変化はない。
 一方で戦後日本の国策の中心は、経済成長と対米従属このふたつであった。「戦後レジームからの脱却」を言いながら、安倍のすすめる政策はことごとくこの二大基軸の無節操な焼き直しでしかない。だから、その理念には間違いなく嘘がある。
 彼の祖父が戦犯容疑者から首相にまで登りつめられたのは、アメリカの水面下の意向が働いたからだ。だから岸は「60年安保」を政治生命を賭してまで捻じ伏せた。だが新憲法に結実した国民の平和への希求までは潰せなかった。なぜなら、その希求が本物だったからである。孫は明らかに祖父の復讐戦を仕掛けている。だが、ここは彼等の血筋が如何なる支配の正統性もおびる国では断じてない。
(続く)








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