書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆鈴木慎二(BOOKS隆文堂)
今読んでも非常に斬新
二十世紀思想渉猟
生松敬三
No.3175 ・ 2014年09月20日




■去る八月十六日に木田元が亡くなった時、真っ先に連想したのが『闇屋になりそこねた哲学者』(晶文社↓ちくま文庫)だった。オススメとして書くつもりで読みすすめていくうちに17章の「友人たち」の所で止めてしまった。『闇屋になりそこねた哲学者』よりも、今だからこそ、この本を紹介しなければと強く思った。
 生松敬三の名前を知ったのは、坪内祐三『新書百冊』(新潮新書)。木田元との共著『現代哲学の岐路――理性の運命』(中公新書↓講談社学術文庫)が挙がっていた。読んだのは大学を卒業して、ふらふらしていた時期だったと思う。十九世紀から二十世紀半ばくらいまでの哲学の流れを、対談という形で語っているのが新鮮だった。哲学者の本は難解でわかりづらいという偏見を持っていた当時、思想書に関心を寄せるきっかけをつくってくれた本だったと今となっては思っている。
 木田元の本は、今の職場で働きはじめても、新刊が続々と刊行され、文章や新書も版を重ねるものが多かったけれど、生松敬三の本は探すのが困難だった。『ハイデルベルク』(講談社学術文庫)、『社会思想の歴史』(岩波現代文庫)、翻訳書は、ジョージ・スタイナー『マルティン・ハイデガー』(岩波現代文庫)、スチュアート・ヒューズ『意識と社会』他の三部作、マイネッケ『近代史における国家理性の理念』(いずれも共訳、みすず書房)は購入可能だったけれど、購入して読んだのは、『ハイデルベルク』と『マルティン・ハイデガー』、今回取り上げた本くらい。
 だが当時の拙い知識では手一杯で、『現代哲学の岐路』を読んだ時のような読後感は残らなかった。木田元の『闇屋になりそこねた哲学者』のような本が、生松敬三にもないかと思い探書を始めた。目を通したのは、『日本文化への一視角』(未來社)、『思想史の道標』(勁草書房)、『近代日本への思想史的反省』(中央大学出版部)、『現代思想の源流』(河出書房新社)等で、ようやく見つけたのが、『書物渉歴1・2』(みすず書房)。読了後、生松敬三が旧制の東京高等学校に在籍していた時の先生が、高橋義孝(内田百閒の弟子で、フロイト、カフカの翻訳で著名な方)と山崎正一(ヒュームの研究で有名な方)の二人と知り、高校生の生松敬三に多大な影響を与えたことは、想像できた。
 『二十世紀思想渉猟』の内容に触れていないではないかと怒る方もいるかもしれない。が、解説を寄せている木田元の文章以上の文章を書くのは、無理なことは自覚しているし、ジンメル、カッシーラー、マックス・シェーラーの言及が、今読んでも非常に斬新なものだということを指摘するだけで充分だろう。
 今年は、生松敬三の没後三十年。大学の同僚だった丸山圭三郎は、没後二十年目の昨年、著作集が刊行され、つい先頃完結した。亡くなった木田元の著作は殆ど入手が可能だが、生松敬三の著作が新刊で入手困難なのは、人文書の担当としては残念である。版権を持っている版元さんに復刊して頂きたいし、心ある方が新たな視点を加えて選集を編んで頂きたいとも願っている。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約