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評者◆小嵐九八郎
短歌と自己愛
鼓動のうた――愛と命の名歌集
東直子
No.3174 ・ 2014年09月13日




■編集者との遣り取りでFAXやTELであれこれやっていたら、別のTELが入り「センセ、石川啄木と宮沢賢治を知っていますか」と問われ、「はい、同じ東北出身ですから」と答えたら、「その特集の雑誌を出します。有料で五首を」と言い、「有料とは稿料のこと?」と聞き返すと、「いえ、雑誌を買っていただいたらという意味です」としっかり答えられ、お断りした。これほどに短詩型ブンガクの愛好者の心理は見抜かれていると苦笑いをしたけれど、また、これほどに短詩型ブンガクの魔力は凄いとも改めて思った。当方は大学一、二年の時は麻雀に熱中し、学生運動の延長戦の時には競馬に酔いに酔ったことがある。でも、短歌を作り始めた頃の“中毒”的な気分に比較すると、麻雀も競馬も淡かった。麻雀に勝ったとか、馬券を的中させたとかの自己陶酔より、短歌は自己愛に嵌れるのだ……ろうか。
 もっとも、与謝野晶子の《その子二十(はたち)櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな》という歌などを「自己愛を率直に表現した作品を清々しく受け止めることができるのは、短歌という詩型の特技といえるかもしれない」と文字通り率直に認めている歌人・作家もいて、俺の羞恥心も薄らぐ。
 この歌人・作家は東直子さんで、かく書いているのは『鼓動のうた――愛と命の名歌集』においてである。『毎日新聞』に六年間も連載した集大成だ。三度、率直に、という表現を使うと。言葉通り、短歌の入門者、当方みたいに好きなのに無知な者に実にふさわしい本だ。短歌というのはそれ自身で飛翔するので、案外に説明は難しいのだが、情況、心情などを分かり易く、的確に言い当てている。なにより、近代以降の名歌、最新のフレッシュそのものの若者の歌、戦争の喘ぎ、震災と放射能への呻きと、短歌の全歴史にもなっている。《触れること許されぬままお別れを祖母に届かぬ右手が寂しい》という日野はるかさんの歌もある。なぜ「許されぬ」のか。この本を読んでみてね。







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