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評者◆秋竜山
笑う門にはフフク来たる?、の巻
No.3174 ・ 2014年09月13日




■ヘラヘラ笑ってばかりいられないという警告のような本。中島義道『私の嫌いな10の人びと』(新潮文庫、本体四三〇円)。人は当たり前のことを喜ばない。当たり前でないことを喜ぶものである。これは、昔っからそうである。そこで、この本のタイトルだが、まず喜ぶだろう。嫌いな10人というところで喜ぶ。もし、これが、〈好きな10の人びと〉であったらどーだろうか。ちっとも面白味がない。嫌いな10人となれば、10人に選ばれた人は不ゆかいだろう。相当の勇気と無神経さがないと、このような本のタイトルはつけられないだろう。そして、嫌いといっても誰でもというわけにはいかないだろう。隣りのオヤジが嫌いだといっても、そんな知らないオヤジを好きだろうが嫌いだろうが、誰もちっとも面白くないだろう。そーなると、やっぱり、あの有名人ということになるだろう。芸能スキャンダルはその面白さによって喜ばれている。〈私の嫌いな10の有名人〉だったら話がわかる。しかし、よく考えてみると、この嫌いな10の人びとのタイプとして、読者である貴方も対象であるということだ(なーんだ、そーだったのか)。
 本書では〈笑〉をテーマにした項目があるから私の興味あるところだ。笑い好きの私として素通りするわけにはいかない。マンガが哲学に一番近いところにあるのか、哲学がマンガに一番近いところにあるのか、いずれにせよ、人間ほどマンガ的で哲学的な動物は他にいないということだ。
 〈私は笑顔の絶えない顔が嫌いです。そんな顔を眼の前にすると、とたんに居心地が悪くなる。人生、笑ってばかりいられないでしょうに、と思います。〉(本書より)
 そして、〈笑顔の絶えない人を現代日本において肯定的に語る場合には決まって図式があって、やたらけらけら笑っている人(笑い上戸)のことではない。むしろ、悲しい体験や辛い経験が山のようにあったらしいのだが、それをおくびにも出さずに、いつも柔らかい笑みをたたえている人(断然男より女のほうがぴったりする)なのです。〉さらに〈この国では個人のむき出しの感情を嫌う。とくに、悲しいときに涙を流すこと、暗い気持ちのときに暗い顔をすることを禁じる。自分のマイナスな感情をそのまま表現するのは失礼なのであり、社会的に未成熟なのです。〉(本書より)
 顔では笑っていても心の中で泣いている。日本人好みの感情の表現だ。そのせいか、よくテレビのワイド番組で、被害者の御家族などが、怒りの感情をおさえて、決まり文句をいう。「二度とこのようなあやまちは繰り返さないようにして下さい」。なぜ怒りをテレビでぶちまけないのか。テレビカメラをむけられると自然そうなってしまうのか。
 〈そういえば、小さいころから写真を撮るとき「笑って、笑って」と先生やカメラマンから指示された。だから小学校のころの写真を見るとみんな笑っている。〉(本書より)
 たしかに、アルバムは笑い顔のオンパレードである。笑い顔にはフクがあるというが、フフクがあるといったら、どーなるかだ。







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