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評者◆鈴木毅(進駸堂書店中久喜本店)
SF映画ファンにとって特に刺激的な本
SF映画で学ぶインタフェースデザイン――アイデアと想像力を鍛え上げるための141のレッスン
安藤幸央監訳
No.3174 ・ 2014年09月13日




■子どもの頃、『スター・ウォーズ』に登場するミレニアム・ファルコン号やX‐ウイングという宇宙船の操縦席にある計器類とスイッチ類にシビれた。とてもカッチョよかったのである。子どもにとってSF映画=インタフェースだった。当時、親戚の家にあった特大のシステムコンポにはツマミやボタン、そしてトグルスイッチがたくさん付いていて、僕はミレニアム・ファルコン号を発進させる時のハン・ソロになりきりってスイッチを押しまくりコンポの設定をメチャメチャにして怒られた。
 そんな恥ずかしいことを思い出したのが今回紹介する『SF映画で学ぶインタフェースデザイン』である。本書はSF映画に登場したインタフェースデザインの運用面、実現面を真面目に考察したものである。
 例えば、ドラマ『宇宙大作戦』のセットにはスイッチや計器類が綺羅星の如く無数に並び、遠い未来の宇宙船の雰囲気を見事に醸し出していたが、続編の『新スタートレック』では予算不足のためにスイッチ類を製作することが困難であった。そこでプロダクションデザイナーとスタッフは、プラスチックフィルムの大型バックライトパネルに制御盤の図柄をプリントして貼り付けた。機械的なスイッチやボタンを廃し予算を抑えつつ、スクリーンに映る図柄をタッチ操作するように見せたこの未来的かつ先進的インタフェースデザインは、以後のSF映画に多大な影響を与え、スマートフォンやタブレット端末などで一般的となったタッチパネル式インタフェースとして実現している。
 しかし現実に実用化するには課題もある。『スター・ウォーズ』シリーズでは、たびたび立体投影の通信シーンが登場するが、送信者と受信者の目線を合わせる困難を指摘。〝立体投影で通話している間、相対的な地位を尊重し、ダースベイダーの気分を害さないためには、ダースベイダーが同じように見下ろすことが重要です〟と、実用化するためにはユーザーの社会的立場、双方のおかれた状況に配慮する必要があると解説している。
 内容的にはデザイナー、開発者向けに書かれた本ではあるが、SF映画ファンが読んでも面白いのが本書をおススメする理由である。
 『スター・ウォーズ エピソードⅣ/新たなる希望』では、主人公ルーク・スカイウォーカーとハン・ソロがミレニアム・ファルコン号の砲手席に座り、唸りをあげて迫り来る帝国軍戦闘機タイ・ファイターをレーザー砲で迎え撃つ。爆発音が轟き、敵機を撃墜したハン・ソロが「ヒャッホー!」と喝采する名シーンである。
 しかし現実には宇宙空間は真空なので音は伝わらず無音なのである。レーザー・ビームの発砲音もタイ・ファイターの唸りや爆発音も科学考証的には聞こえないのである。これら一連のシーンをインタフェース的観点から鑑賞するならば、主人公たちが操作する攻撃システムが擬似的に音を作り出していると解釈するのである。システムが作り出した環境音により、操作する人間が直感的に方角、距離を感知するためのサポート機能であると。
 このようにSF映画に登場する架空のインタフェースが、空想と現実を結びつける役割を担っていることに本書から気付かされるのである。そのほか『エイリアン』と『ブレードランナー』には同じインタフェースが使用され、同作に登場するウェイランド湯谷社のロゴがドラマ『ファイヤーフライ宇宙大戦争』に登場することから、エイリアンとレプリカントと人喰い人類リーヴァーが同じ世界にいたとする設定にファンはニヤリとせずにはいられない。
 デザインや専門書の棚に並べるのはもったいないほどSF映画ファンには刺激的な本なのだ。







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