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評者◆殿島三紀
やったね、不器用おやじ――監督 ニルス・タヴェルニエ『グレートデイズ!――夢に挑んだ父と子』
No.3173 ・ 2014年09月06日




■『2つ目の窓』『サンシャイン 歌声が響く街』『イーダ』『ローマの教室で』『グレートデイズ!――夢に挑んだ父と子』等を観た。
 『2つ目の窓』。河瀬直美監督作品。奄美大島が舞台。連綿とつながる生の営みに気づかされる。
 『サンシャイン 歌声が響く街』。デクスター・フレッチャー監督。80年代スコットランドの人気双子デュオ「プロクレイマーズ」の楽曲で構成されたミュージカル。エディンバラを背景にした群舞がいい。懐かしい雰囲気のミュージカル映画だ。
 『イーダ』。被害者であるだけではないポーランドのもう一つの側面を描いた静謐な作品。「これまでの人生を亡命状態で過ごしてきた」という1957年ワルシャワ生まれのパヴェウ・パヴリコフスキ監督の本作、今まではヨーロッパ各国で映画を作ってきた監督が初めて母国で撮った。戦後ポーランドをリリカルでありながら抉りだすように描いている。佳品。
 『ローマの教室で』。ローマの学校で30年間教師をしてきた作家で詩人のマルコ・ロドリのエッセイが原作の学校ものである。ジュゼッペ・ピッチョーニ監督。生徒も教師も学校という場で変わり、成長していく姿が良い。
 今回ご紹介するのは『グレートデイズ!――夢に挑んだ父と子』。失業した父と脳性麻痺を抱える反抗期の息子。息子の身体状況に向き合うことができずにいた父が、あろうことか、その息子とトライアスロンに出場。それも一番ハードなアイアンマンレースに――という話だ。感動的ではあろうが、安直なお涙ちょうだいかも、とちょっと警戒。だが、しかし、人間、もっと素直であっていいのだ。感動の一作である。
 スイム、自転車、ラン。1つだけでも大変なのに、3つ全部を1人でまとめてやってしまおうというトライアスロン。それもアイアンマンレースとなると、226kmを16時間以内に泳ぎ、漕ぎ、走りきるという肉体の限界に挑戦する超ハードなレースだ。
 舞台は毎年6月コート・ダジュールで開催されるアイアンマンフランス・ニース大会。紺碧の地中海に設けられた1・9kmのコースを2往復泳ぎ、高低差の激しい山岳地帯を自転車で180km。標高差1000メートルを50kmかけて延々と登り、精も根もつきたところでシューズを履きかえ、ラン42・195km。「息子よ、それを俺にやれってか?」
 そう、1人でだってできるかどうかの苛酷なレースを、身体の不自由な息子と2人で参加しようというのだ。スイムでは息子の乗ったボートをひっぱって泳ぎ、バイクは前部にとりつけた椅子に息子を座らせ、ランは車いすを押して走る。いや、もう考えただけで吐きそう。しかし、この荒唐無稽な企てをリアルにやってのけた父子がアメリカにいたからこそ、この映画の企画も通ったのだろう。
 監督はニルス・タヴェルニエ。ドキュメンタリーを得意とする監督だけあって、レースが始まり選手たちが一斉に海へ飛び込んでいく場面、それを俯瞰でとらえるシーンなどは鳥肌が立つほど。軽くない。それどころか、かなり上質な映画だ。父親を演じたのは『最初の人間』(2011)でA・カミュを演じたジャック・ガンブラン。スポーツ映画というとマッチョな筋肉おやじを連想するが、憂いをたたえつつも息子との関係を立て直していく知的な鉄人を好演している。息子役には、実際に障がいを持つ青年を起用すると決めていたという監督。息子を演じたファビアン・エローは自動車運転免許証取得を手始めに、障がい者自身が自分で車を運転するための支援協会を立ち上げるなど積極的な青年。将来はコミュニケーションの分野で働くことを希望している。身体の不自由さを感じさせない自然な演技に感服。
 美しいアルプスを背景に、自転車が風をきる音や下り坂の爽快感。知らない内に笑っていたし、泣いていた。
(フリーライター)

※『グレートデイズ!――夢に挑んだ父と子』は、8月29日(金)より、TOHOシネマズ日本橋、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。







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