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評者◆森泰美(函館蔦屋書店)
これをティーンに独占させるなんて
プリティ・モンスターズ
ケリー・リンク著、柴田元幸訳
No.3173 ・ 2014年09月06日




■今夏、柴田元幸先生をお招きし、贅沢にも2日間、イベントをしていただいた。ひろくご紹介として店の中央広場に『柴田元幸書店』をつくり、先生が手がけられた、いま手に入る作品すべてをならべて、手ずから書いていただいた推薦コメントを飾った。これまであの作品、この作品が「柴田元幸 訳」であることを当然のように享受してきたが、あらためてこの質量ときたら……。たとえば本の1冊1冊に声があるなら、どれほどにぎやかだろうか。
 1日めの講演のなかで、アメリカ文学が(日本もまた然り)盛り上がっていることの理由に、根強かったリアリズム文学の風潮から、若手中心に幻想をまじえたジャンルミックスで表現する傾向がひろがったことを挙げられていたが、「その流れを誰よりも楽しく体現している」(フェアコメント文より)著者、ケリー・リンクの新刊が『プリティ・モンスターズ』だ。邦訳としては3冊めとなる今作は、様々なアンソロジーへの寄稿や原書のペーパーバック版に書き下ろされた短篇までを含めた、ファン待望の豪華な自選集といった具合。ヤングアダルト(主人公たちがみんな少年少女だ)にとどまらず、純文学でもSFでもファンタジーでもホラーでもない、ふわふわとしているようで端正で濃密な文章の連なり、神の配置によって書かれたような――お気に入りがみんな詰まっているおもちゃ箱みたいな魅力をもつ本だ。
 1篇め「墓違い」は、事故で亡くなったガールフレンドを葬るさいに、彼女のために詩を書いてその手に握らせた男の子が、1年ちかく経ってから写しも取っていなかったその詩を取り戻すべく彼女の墓をあばこうと計画するもの。風習のちがう日本では発想しえない。しかもいまさら掘り返すなんて正気か、なんて、先を想像するだけでちょっと腰がひけてしまう導入。ホラーは苦手なんだけどと恐怖心を煽りにあおられつづける。だがとうとう棺のふたをあけると……。アメリカでは墓地はティーンの定番デートコースなのだそうだけれど、その際にこのお話が話題のひとつに加わったりしているだろうか。冒頭でおぼえたおそろしさをするすると逸らされたさきには、男の子はあまりに幼く、時が止まった女の子は……というせつなさが静かにのこる。
 お気に入りの詰まったおもちゃ箱にはなにが入っていたっけ――わたしにもまたタイルの繋ぎ目を踏まずに歩けば怖いことは起こらないと信じていたころがあった。子供たちが真剣に守るそんな条理が、現代の不安と戦う武器であるような、おかしみと温かさがぎっしりのマスターピースだ。味わい深いディテイルでどんどんと目先がずらされていき、読みとおすのに時間がかかることすら好ましい。これをティーンに独占させるなんてとんでもない。ロマンティックでちょっと怖い、それをチャーミングと呼ぶにはあまりに確かな名作揃い。全年代でたのしみ、語り合いたい。







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