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評者◆ぽんきち
犬とは人間にとってどのような存在なのか
犬が私たちをパートナーに選んだわけ――最新の犬研究からわかる、人間の「最良の友」の起源
ジョン・ホーマンズ著、仲達志訳
No.3172 ・ 2014年08月30日




■犬と人との関わりを歴史的・科学的・哲学的・政策的など、多面的に語るエッセイ。犬について総合的に考える「犬学」への入門書ともなっている。著者はジャーナリスト・編集者であり、比較的平易な読みやすい一冊である。現代人にとって、特に犬を飼っている人にとって、犬とは何か、を考えてみる。表紙の犬は、著者の犬・ラブラドール系のステラ。
 猟犬・番犬・牧畜犬としても利用されてきた犬だが、現代において、ペットとしての役割が最も大きなものだろう。かわいい仕草で人を和ませ、人と人との間の潤滑油となり、散歩に行くことで健康にもつながる。近年、注目されているのは、愛着行動に関与するといわれるホルモン、オキシトシンの役割である。犬と人とのつながりによりこのホルモンの分泌が増えるというものだ。犬はオオカミから進化してきたとされているが、オオカミとの類似点・相違点を研究している人もいる。どの部分が違っているため、犬は飼い慣らすことが出来たのかを見ていくわけだ。犬は賢いと言われるが、犬の脳に関する研究や行動学研究も徐々に進められている。犬の行動を見ていると、飼い主はつい「寂しがっている」とか「焼き餅を焼いている」とか擬人化しがちだが、そうしたことがどの程度まで「妥当」であるのか、やがて解明されていくのかもしれない。犬は、猿にも見られない能力を持ち、例えば、犬は、人が指を差した先にものがあることを理解するが、チンパンジーは理解できないといった例もある。犬を研究することで、犬だけでなく、包括的に、「認知」とは、「社会化」とは、といった研究にも広がっていきそうである。こうしたことを含めて、犬を総合的に研究する「犬学(Dog Science)」という研究分野が実際にあるそうで、国際ミーティングも行われているのだという。但し、未だ知名度はさほど高くなく、肝心の犬が入場できない会場でフォーラムが行われるなどといった笑える話もある。
 現代では多くの純血種が知られる。この起源は実はそれほど古いものではない。品種改良の分野で大きな役割を果たしたのは、18世紀のベイクウェルという農場主で、彼は、それまで羊毛と肉の両方を商品としていた畜産業の中で、食肉に注目し、肉付きのよい羊だけを選び出して繁殖させるという画期的な手段を採った。犬の世界に血統の考え方が持ち込まれたのはその少し後で、上流階級が「文明化された」犬を手に入れるため、近親交配が行われるようになり、「血統書」が重要視されるようになっていった。1870年代以降、ドッグショーが盛んに行われるようになる。ドッグショーでは形態が注目され、元々は何らかの役割にあった特徴だった、「短い鼻」や「曲がった膝関節」のような形を追求するあまり、深刻な障害も生み出すようになった。「純血」であるということはまた、遺伝病の危険も高まるということである。BBCで放映されたこうした問題を扱った番組は大きな反響を生んだ。
 犬の殺処分は日本でも問題だが、本書の著者が住むアメリカでもまた問題である。アメリカの場合、熱心に活動するドッグシェルターも多い。アメリカに特徴的なのは、中西部や南部の州から、北東部や西海岸の州へと、犬が大量に移動する点だ。前者は比較的保守層が多く、後者はリベラル派が多い。前者では犬の命はさほど重要視されず、犬はあまりがちである傾向があるようだ。後者ではむしろ、欲しがる人が多く、犬が足りない。結果、犬の「民族大移動」がよく見られるという。犬があまっているシェルターは、飼いたい人が多い地域に犬を送り出す。受け入れ側のシェルターが支援して、送り元のシェルターに避妊手術設備を作るといった活動もあるという。ある意味、持ちつ持たれつの関係が出来ているのだ。ただ、熱心に活動している団体・個人は多いが、もちろんすべての犬が救われるわけではなく、動物愛護には、一方で犬を救いつつ、一方で犬を殺す活動も生じる。重い仕事である。
 ヒトと古くから暮らしてきた動物、犬。多面的に見ていくのもまた興味深い。犬の寿命はヒトほどは長くない。犬を飼う、ということはまた、犬を看取る、ということでもある。願わくは、犬が静かな朝を迎えるその最後の日まで、互いにとって互いがよい相棒たらんことを。



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