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評者◆秋竜山
「なるほど」ことわざワールド、の巻
No.3171 ・ 2014年08月16日




■バカバカしいほど、おかしく、笑えてくるものである。その一つに、〈雨の降る日は天気が悪い〉と、いう実にバカバカしいひとこと。誰がいい始めたのか。ところが、これが「ことわざ」であったのだ。何を意味する「ことわざ」なんだろうか。時田昌瑞『辞書から消えたことわざ』(角川SSC新書、本体八二〇円)で、これが「ことわざ」であることを知った。
 〈この句を少し変えて「晴れの日は天気がいい」と言ったらどうなるだろう。たぶん、当たり前なことを言うな、とでも言われるのがせいぜいだろう。つまり、この句もわかり切った当たり前なことを臆面もなく言いつのる輩に対する批判の言葉となる。類語は特に多くはないが、比較的よく知られるのが「犬が西向きゃ尾は東」。その他「鶏は裸足」「北に近けりゃ南に遠い」「親父は俺より年が上」など噴きだすような傑作がそろう。なお、見出しの句は幸田露伴の「不蔵庵物語」(其一)にみえる。〉(本書より)
 ことわざは絶妙なる譬えを有する面白おかしい“庶民哲学”である。と、著者はいう。庶民の笑いというものだ。笑っている顔が浮かんでくる。そして、笑いの中に必ず「なるほど」と、思わせる。この「なるほど」がなくてはならないだろう。もしかすると、笑いというものには、「なるほど」性がなくては、心から笑えてこないのかもしれない。〈雨が降る日は天気が悪い〉なんて、なるほど笑いの大傑作だろう。
 〈日本には古代から現代まで五万以上のことわざがあることがわかっている。そして、世界の国々にもある。世界の言語の数は三千とも五千ともいわれ、そのほとんどの言語にことわざがあると推測されている。事実、ドイツには三十万を収録する辞典もあることから推測すれば、世界のことわざの総数は計り知れないといえる。)(本書より)
 〈医者と石屋は漢字でお書き、唐紙と唐紙かなで書け〉と、いう「ことわざ」がある。本書は、解説がたのしみである。
 〈物事への対処は情況に応じた実際的なものでなければならないとの譬え。同音異義語の存在をことわざにしたような珍句。たしかに、医者も石屋も音で聞いたり、カタカナや平仮名で書いてもその違いはわからないが、漢字にすれば明瞭になる。唐紙の方は読み方で指す対象が異なる。(襖のこと。)〉(本書より)
 その昔、私にも、これに似たような、ことわざのような経験があった。漫画で生活が始まった頃、ある雑誌で電話インタビューがあった。青年の頃の職業として、私は電話口で「漁師」といった。記者が「わかりました」と、いって、雑誌には「理容師」となっていた。「漁師」と「理容師」である。同音異義語である。記者が間違ったわけでもなく、私も間違っていったわけでもない。文句のつけようがない。でも、私は「理容師」の経験があったことになってしまったのであった。私はアゼンとしたと同時に、大いにひとり笑いをした。〈虎を描いて竹を添える〉と、いうのがある。虎を描いたつもりが、「これは、虎ですか、猫ですか?」なんて、失礼なことをいう人もいたりする。そういう人のために、竹など描くことはない。矢印を書いてトラと添えればよいだろう。







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