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評者◆添田馨
意味ある言葉は、どこまでも飛翔する――薄汚れた国(2)
No.3171 ・ 2014年08月16日




■世界を欺くために声高に語られる中身のないスプレー缶のような政治言語が跋扈する一方で、それ自体が尽きせぬ意味の源泉となって広範にシェアされていく詩の言葉がある。
 夏だというのに、これまで生きてきた中でついぞ覚えたことのないようなうそ寒さを日々感じている。以前、人間は脳のある部分に損傷を受けると、昨日まで通じていた他人の言葉が、何を言っているのかまったく意味が掴めなくなると聞いたことがあった。それと同じ状態にいつの間にか自分も陥ってしまったような感覚が、もうずっと続いているのである。
 なぜ集団的自衛権の行使容認がいま急務なのか、政府見解を何度聞いても分からない。それは「積極的平和主義」なのだとあの総理は言う。でも私にはこの政策の意図が一言半句も呑み込めない。変なのは私の方かとさすがに不安になってきた折に、実は決してそうでもないぞと励まされる予兆に触れることができた。
 詩人の宮尾節子さんの作品「明日戦争がはじまる」がネット上で拡散している。新聞報道によると、6月29日のJR新宿駅南口の歩道橋上で集団的自衛権行使容認反対を叫んでいたとされる男性の焼身自殺未遂事件が、そのきっかけだったという。詩の最後の部分はこうだ。「戦争を戦争と/思わなくなるために/いよいよ/明日戦争がはじまる」――私はこの一篇の詩に“3万件を超えるリツイート”がなされたという“社会現象”に、どこか救われるような思いがした。従前のアナログな感覚ではすでにカバーしきれない無意識の鳴動、3万人を超える数の人のあいだで間違いなく何か意味あるものが交換されている、そんな確かな気配が感じられたからだ。言葉に化体した何かが、いま間違いなく飛翔したのである。それは言葉が時代の側から新たな生命としてのメッセージを負荷され、みずから手にしたその翼で人から人へと次々に伝播している姿なのだと思う。
(続く)







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