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評者◆秋竜山
100年後の漱石、の巻
No.3170 ・ 2014年08月09日




■大観といったら、日本画の大家である。だから日本画といったら大観と答える人が多いだろう。知らない人はいない。大観にどのような作品があるかというと、知ってるようで知らないものである。芭蕉にもいえる。俳人だろうぐらいは誰でもいえる。古池や蛙とびこむ水の音、は有名だ。しかし、芭蕉について知ってるようで知らないものだ。漱石についても大いにいえる。昔の小説家であり、お金に顔が印刷されているとか。我が輩は猫である、という作品ぐらいは知っているだろう。他にもいっぱい名作がある。だからといって、知ってるようで知らないものである。今、朝日新聞朝刊に漱石の「こころ」が連載されている。この小説、知ってるようで知らないものだ。初出が一九一四年四月であるというから、100年前の小説だ。100年前の朝日新聞に連載されたものが復刻という形でお茶の間に届けられている。100年記念ということかしら。理由はよくわからないが、漱石の小説が朝日新聞に掲載されていて、それを毎朝読んでいると、いかにも、朝日新聞を読んでいるという実感をつかむことができるような気もしてくる。時代、そして、時間の共有ということか。なぜ「こころ」であるか、わかったようなわからないような企画でもあるが、漱石ならどんな作品でも文句のつけようがない。100年前に、この小説が、100年後の同じ朝日新聞の朝刊に復刻という形で連載されるなど、当時、誰もわからなかっただろう。漱石自身とて同じだと思う。100年後の日本がどうなっているのかさえわからないはずだ。これとて、わかっているようでわからない部類に入るだろう。100年後の日本はどうなるか、どこかの新聞の新年号特別企画のようなテーマでもある。結局はわけのわからない新年号らしい夢のある特別企画で終わってしまう。誰もわからないだけに、いい加減なことをいいあうだけだ。読む方も信じていない。信じられるわけがない。「こころ」は100年前の新聞小説である。超古い小説といわねばならないだろう。小説のもの知りは、100年たってもちっとも古さがなく、むしろ現代小説よりも新しさを感じさせられると、いったりしている。そういうものか、とも思えてくる。
 別冊宝島編集部編『読んでおきたいベスト集! 夏目漱石』(宝島社、本体六八六円)で、「こころ」がとり上げられている。他に「坊っちゃん」「夢十夜」「硝子戸の中」がある。文語本化されたそれぞれの名作である。「こころ」の100年前を朝日新聞で復刻版として、そして、「こころ」の100年後をこの文庫本で、並べて同時読みして、読んでみると面白い。
 〈私が先生と知り合いになったのは鎌倉である。〉(「こころ」より)
 この文章での鎌倉が文庫本で読んだ印象と100年前の復刻小説で読んだ印象がちがってくる。活字のちがいからくるものだろう。活字というものは脳にちがった刺激をあたえるものだ。明治の活字と、平成の活字である。きっと、みんな100年前の復刻小説を切り取ってスクラップブックに貼りつけたりしているだろう。やることはみんな同じだ。







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