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評者◆内堀弘
初夏の神保町――「ぽかん」のライブ、七夕大入札会
No.3169 ・ 2014年08月02日




■某月某日。『ぽかん』という小さな雑誌の四号が出て、その発行記念ライブが神保町で開かれた。
 発行人の真治彩さんは、以前大阪で「ちょうちょぼっこ」という貸本喫茶をやっていた。四人の友人たちが本を持ち寄ってアパートを借りた。平日はそれぞれ仕事をして土日だけオープンする。
 その貸本喫茶を閉じるころ、『ぽかん』を発行した。書物雑誌ではないが、本とか読書の周辺にいる人が書いた。小沢信男や山田稔という書き手は何とも渋い。そして、若いミュージシャンが発行記念のライブをする。この雑誌を包む時間は、まるで週末だけオープンしたアパートの一室のようだ。
 七月に入って神保町では七夕古書大入札会が開かれた。逸品揃いの古書が一同に並ぶ、といえば敷居も高くなるが、そんなことはない。ここは一般向けに二日間の公開下見会を開く。本や資料の回廊を巡るのは心地いいものだ。
 たとえば、森鴎外の自筆草稿五枚があった。最低入札値(つまり入札するならこれ以上の額ですよ、という値)が三百万。そのすぐ側に寺山修司の自筆草稿二枚が十五万、並ぶように村上春樹の『うずまき猫のみつけかた』(平8)の署名入が七万(署名がなければ二千円もしない本だ)、その横に武者小路実篤の書簡葉書四十五通が六万(数字はみな最低入札値)。なるほど、いつにあっても稀少なものがあり、移ろう人の興味はときどきの値に反映される。いや、脈絡とか意味ではない。そんな古い書物や資料と同じ場所に身を置くのが楽しい。
 何年か前、『彷書月刊』の編集長をしていた田村治芳さんが、七夕大入札会に夢野久作関係の肉筆資料を出品したことがある。下見の会場で彼は一日中張りついていた。「そんなことしていたら見たい人も寄ってこないよ」と私は笑った。彼の病気が進行した頃で、雑誌の赤字の穴埋めになればと必死だった。亡くなる一年半前のことだ。
 『ぽかん』に、私は田村さんのことを連載している。この人があれほど雑誌に執着したことを、そのどうしようもなさを書いておきたかった。それと、あの雑誌が生みだした、小さなアパートのような周縁のことも。








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