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評者◆添田馨
信念による、これは政治的なテロである――薄汚れた国(1)
No.3168 ・ 2014年07月26日
■「信念」――何とつまらない言葉になってしまったことか。以前はもうちょっとましな出で立ちをしていた。だから「信念は嘘よりも危険な真理の敵である」といったアフォリズムに出会っても、心から首肯はできなかった。その語幹のうちに人間固有の一本筋の通った潔ささえ感じていたからだ。でも残念なことに、いまこの言葉は偏狭な政治家が対話を拒否して独善的にものごとを決めていく際の、開き直った決め文句に成り下がってしまった。
「このようなご批判も、時には恐れずに、自分の信念を述べていくつもりであります」とか「みんなが自分と同じ信念を持つという気持ちは私は毛頭ないわけであります」とか宣うのは、むろん勝手だ。だがそんな素性の分からぬ「信念」が、国の根幹である憲法の魂といってもよい部分を、汚い泥足で踏み躙って恥じない一政治家の内に秘めた動機なのだとしたら……。集団的自衛権行使容認の閣議決定と、それを強行させた“首相”の人間性のことを私は言っている。 ところで威力や暴力、詐欺的手法などを駆使して他人の会社などを乗っ取り、社会的な共益性など一切顧みずに自分たちの我欲だけを満足させようとする輩のことを、世間では“反社会的勢力”と呼ぶ。彼らは表向きは立派な法律家や経営コンサルの貌をして、企業や行政の脇の甘い部分から入り込み、いつの間にか取り返しのつかないまでにその資産を食い物にする。そのひそみに倣えば、いまこの国の権力中枢を握っているのは、紛れもなくこうした反社会的な勢力に他ならない。ナチスの例を引くまでもなく、政権中枢が薄汚れた奴らに占拠される事態はあり得るのだ。 わが国で現在、進行しているのは、ひとりの人間の歪んだ信念が、国のかたちを勝手に捻じ曲げようとしている非常事態、政治的なテロである。問題は、それを私たちが許すのか、許さないのか、なのだ。 (続く) |
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