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評者◆殿島三紀
人間心理の深層に潜む恐怖――監督ドゥニ・ヴィルヌーブ『複製された男』
No.3168 ・ 2014年07月26日




■『オールド・ボーイ』『消えた画――クメール・ルージュの真実』『her 世界でひとつの彼女』『革命の子どもたち』『複製された男』等を観た。
 『オールド・ボーイ』。スパイク・リー監督。日本の劇画が原作だ。2004年度カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したパク・チャヌク監督『オールド・ボーイ』のリメイクでもある。20年間、監禁され、突然解放された男が主人公の復讐劇。
 『消えた画』。監督のリティ・パニュは1964年プノンペン生まれ。当時の同世代の人々と同じく家族をクメール・ルージュによる強制労働で失っている。自身は79年逃亡に成功し、フランスに移住。本作は人々の血が染み込んだカンボジアの土で作った人形を使い、監督の生きた闇黒の時代を描いた異色のドキュメンタリーである。
 『her 世界でひとつの彼女』。スパイク・ジョーンズ監督作品。近未来のLAで代書会社に勤める男の恋人はAI(人工知能)だった。声だけの出演となったAI役のスカーレット・ヨハンソンだが、そのセクシーな声で第8回ローマ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。
 『革命の子どもたち』。シェーン・オサリバン監督。日本赤軍・重信房子。ドイツ赤軍・ウルリケ・マインホフ。革命家の彼女たちは母親でもあった。その娘たちが革命家であり母であった彼女たちを語り、娘としての人生を語ったドキュメンタリー映画。
 そして、今回紹介するのは『複製された男』である。原作はポルトガル唯一のノーベル文学賞作家ジョゼ・サラマーゴ(1922―2010)の同名小説。ポルトガルという国には欧州の辺境というイメージがつきまとうが、主人公が38歳の孤独な歴史教師で、現代人の抱える心の暗闇やアイデンティティの危機を追及した作品、と続けばグローバルな色合いを帯びてもこよう。ということで本作はカナダとスペインとの合作映画。監督はカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーブ。2009年には長編3作目『POLYTECHNIQUE』がカナダの監督週間でプレミア上映、トロント映画批評家協会のカナダ映画ナンバーワンに輝くなどした実力派だ。
 なにやら淫靡なクラブの、淫らで見世物まがいの全裸の女性が登場するイントロダクション。一転して、教壇に立つ歴史教師の主人公。更に「カオスとは未解読の秩序である」という一節。これって、この映画はカオスだよ、とことわっているのか。なかなか面倒くさそうな始まりである。しかも一貫して寒々しいカナダの弱い光が充満する。う~ん、文芸大作ということか。教師のアダムは数年前の離婚以来、少々気鬱気味。引っ越したばかりの新居は整頓されてはいるが飾り気のない高層アパートの一室だ。学校と家を往復するだけの彼は、同僚から勧められて観たB級映画の中に自分と瓜二つの俳優を発見したことから、その人生は思いもよらない方向に向かっていく……。
 冒頭の安っぽいセックス・クラブのシーンと理屈っぽい言葉にうんざりしていたにもかかわらず、うすら寒いトロントの都市風景と映画の思いがけない展開に思わず吸い寄せられていた。第一印象とはいい加減なものだ。自分にそっくりな人間というのはいかようにも解釈できる。広い世間には必ず自分にそっくりな人間がひとりはいるものだ、という説。あるいはドッペルゲンガーか。後者だとすると、それを見てしまった者は必ず死ぬ、という話も聞いたことがある。映画の原題は『Enemy』だ。そっくりな人間とは敵なのか。いや敵らしき人間は他にも登場する。なるほど、ミステリー仕立てというだけあって、頭を使わざるを得ない。主人公のアダムとそっくりさんのアンソニーの一人二役を演じたジェイク・ギレンホールの神経質な演技と、その母を演じたイングリッド・バーグマンの娘イザベラ・ロッセリーニも見ものだ。
(フリーライター)

※『複製された男』は、7月18日(金)より、TOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー。







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