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評者◆鈴木慎二(BOOKS隆文堂)
「殉国」という言葉の変容を追いかける
殉国と反逆――「特攻」の語りの戦後史
福間良明
No.3166 ・ 2014年07月12日




■著者を知ったのは、昨年刊行された『二・二六事件の幻影――戦後大衆文化とファシズムへの欲望』(筑摩書房)だった。二・二六事件とファシズムという二つのキーワードが書名に含まれていたことと、片山杜秀『未完のファシズム――「持たざる国」日本の運命』(新潮選書)等を読んで、戦前の右翼思想の幅が、自分が漠然と考えているよりも遥かに広いことを知って、もう少しこの時代の知識をつけたいと思って手を伸ばした気がする。
 ただ、片山杜秀や中島岳志の本とは異なり、『二・二六事件の幻影~』は戦前の二・二六事件そのものを取り上げているのではなく、戦後の扱われ方について考察した本だったので、当初期待していた、右翼思想やファシズム論考とは異なっていた。面白いけど、期待した内容とは違うかなと感じながら著者あとがきまで読み進めていったら、こう書かれていた。
 【筆者の研究の出発点は、戦前期のナショナリズム研究であった。(中略)その後は、戦争観をめぐる戦後思想史・メディア史を扱う事が多くなった。(中略)本書は、研究を始めたころの関心とその後の研究領域が重なるなかで、構想したものである】
 【本書のテーマを考えるうえでは二〇〇三年から二〇〇八年にかけて竹内洋先生、佐藤卓己先生による「日本主義的教養」の共同研究に加えていただいたことが大きかった。】
 自分の感覚が外れてはいなかったことと、著者が片山杜秀や植村和秀も参加していた「日本主義的教養」のメンバーの一人と知って、まずは、『日本主義的教養の時代――大学批判の古層』(柏書房)を図書館で閲覧したけど、購入しないと熟読ができない性分なので、ほぼ同時期に、この本と『「戦争体験」の戦後史――近代・教養・イデオロギー』(中公新書)を読むことができたのは偶然も働いているのだろうか。
 二冊の本は重複する項目が多いので、読む順番が前後していれば『「戦争体験」の戦後史』を取り上げていたかもしれない。だが、あえて、本書を取り上げたのは二章の「「犬死」の多義性」で、登場する二人の人物に共感を抱いたため。映画監督の中島貞夫と、評論家の丸山邦男に。
 鹿島茂『甦る 昭和脇役名画館』(講談社↓改題及び増補されて中公文庫)と中島本人の聞き書き集『遊撃の美学』(ワイズ出版)から抱いていた中島の印象は、荒木一郎、渡瀬恒彦、岸田森といった個性派をうまく使う前衛的な監督だったから、三十四歳の中島貞夫が監督した『あゝ同期の桜』(公開一九六八年)という映画は著者の考察を読むまで、『遊撃の美学』にも書かれていたのに、気にも留めていなかった。中島本人は「犬死」を主題にして制作を試みたが、東映本体との軋轢から、制作意図通りにはいかず、公開という形になり、しかも興行成績が良かったため、自分の作品ではないと思ったようだが、鑑賞した著者は、中島の主題「犬死」を深く理解して、作品を誠実に批評していることは間違いなく感じられた。
 もう一人の丸山邦男は、丸山眞男の六歳年下の実弟。名前も著作もこの考察を読むまで全く知らなかったが、死者の美学化への不快感や、実兄丸山眞男の『現代政治の思想と行動』(未來社)への批判の記述は、少なからぬ驚きだった。丸山眞男は、実弟の批判をどう受けとめたのだろうか。
 個人的に二章と、この二人に注視してしまったけれども「殉国」という言葉の変容を追いかけるだけで、新たな疑問を提示してくれる本である。興味を持った方は是非一読していただきたい。







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