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評者◆伊達政保
虚実ない交ぜにした昭和十年を抉り出す――「発見の会」創立五十周年記念公演第一弾『新版・二重瞼の母』
No.3166 ・ 2014年07月12日




■元祖アングラ劇団とも言える「発見の会」は、今年創立五十周年を迎えた。その記念公演第一弾として『新版・二重瞼の母』作・上杉清文、演出・有馬則純、音楽・不破大輔が上演された。本公演としては三年振りであり、その間、一昨年には劇団の主宰者である瓜生良介氏、続いて最年少劇団員市村まゆ子、今年に入り西村仁が亡くなっている。
 この作品は二十七年前に上杉が自分の劇団で上演した改作・再演であるという。冒頭ブリジッド・フォンテーヌの「ラジオのように」が流れる中、ひろ新子の発見の会とは異質の、まるで状況劇場を思わせるような演技から始まった。あれっと思った途端、ストンと発見の会の芝居に転換した。時は昭和十年、浅草の芝居小屋「紅座」を舞台に、劇中劇として長谷川伸作「瞼の母」(初演ではシェイクスピア「真夏の夢」だったという)と「能・蝉丸」の浅草レビュー版が挟み込まれて展開する。当時、作者自ら一身上の変化により上演を禁じた「瞼の母」、帝の子捨てとは不敬であると上演を禁じられた「蝉丸」(同年出版の「ドグラ・マグラ」の中で夢野久作は上演禁止を批判)を並べ、喜多流師範杉山泰道即ち夢野久作(飯田孝男が好演)に「蝉丸」の口上をさせるとはさすが上杉。当然、ハチャメチャ、ドタバタ、ダジャレ連発の発見の会の芝居は健在で、輿石悦子、吉田京子の大女優による宝塚レビューの存在感と貫禄には負けた。「風煉ダンス」など発見の会に近しい役者たちも大健闘していた。
 上杉清文の博覧強記は、山田風太郎もかくやと思わせるばかりに、虚実ない交ぜにした昭和十年を抉り出していく。川端康成、伊藤晴雨、江戸川乱歩、江戸川蘭子、竹久夢二(「宵待ち草」の歌を出すだけ)、李香蘭、辻潤など、出るわ出るわ。オイラとてもじゃないが付いていけない。そして翌年には二・二六事件が起こる。「紅座」の座長甘栗蒸羊羮が栗原安秀中尉となり、四人のレビュー・ガールが磯部浅一元一等主計、鈴木金次郎少尉、安藤輝三大尉、野中四郎大尉になるとは、まあなんと。大魔王(北一輝)には杉山茂丸の息子である杉山泰道を会いに行かせているのだ。これこそアングラ、ドタバタ、反権力の真骨頂である。
 アングラといえば、唐十郎が新宿梁山泊に書下ろした「風のほこり」(カジノ・フォーリーの捩り)も、昭和五年(翌年満州事変)の浅草の劇団を舞台とした話だった。状況風の世話物でドタバタ抜きだがね。
 そして音楽だ。不破大輔のベース、グラシャス坂井の三味線、トランペットとドラムの生劇伴は劇に合わせ、時にはテーマをまたはアドリブで、芝居をしっかりと支えていた。さすが。







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