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評者◆内堀 弘
夢の本棚住宅とは――本に囲まれて暮らすこと
No.3165 ・ 2014年07月05日
■某月某日。古本屋なので、お客さんから「本を整理したいので見てくれますか」という問い合わせをいただく。「どんなものでしょう」とお尋ねをして、的確な(というのも妙だが)答えが返ってくることは少ない。
「おいでになったらビックリすると思います」「家の中が本だらけで歩くのも危険ですから」と先方の奥様はおっしゃる。「大丈夫です。そういうところは慣れています」とお答えして、約束の日に出かけた。先年亡くなったご主人は知られた作家だった。書庫と呼ぶべき部屋もあり、作りつけの書架に本が収まっている。床にも本が積まれていたが、それは驚くような光景ではなかった。 この蔵書が図書館に入ることになり、私の仕事はその査定だった。歩けないほど本が溢れていて、何日もかかるかもしれない。そんなことはまったくない。深閑とした家は塵ひとつないほどに片付いている。どういうことかと、私は少し拍子抜けした。 同席していた年配の編集者は、この作家が文学を中心とした厳格な生活をしていたから、家族には蔵書が恐ろしいもの(量)に見えているのだろう、と言った。 『本の雑誌』の七月号が「絶景書斎」という特集を組んだ。巻頭には作家や研究者の書斎がカラーで紹介されている。まさに絶景で、書棚は見ていて飽きない。そして面白かったのが「夢の本棚住宅を建てるまで」(根岸哲也)だ。 本好きが高じて、築五十年の家を脅かすほどに本が溢れた。一念発起、建て替えを決意する。それが、壁面全面を(しかも吹き抜で)本棚にする、いわゆる本棚住宅だ。つまり、書斎や書庫を造るのでなく、四六時中本に囲まれて暮らす。この夢の住宅を、設計士と相談し、実現する。その顛末記だ。いや、これこそカラー写真でたっぷりと見たかった。 古本屋は「好きなときに本が読めていいですね」とからかわれる。暇が「いい」はずもないが、それでも書棚の本の背を見ているのはいつだって楽しい。 本棚住宅とはなんと愉快なネーミングか。そこに帰れば気持ちがほどけるような場所。本に囲まれる暮らしとは、やはりそういうものだと思いたい。 |
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