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評者◆秋竜山
「驚き」にも二種類ある、の巻
No.3165 ・ 2014年07月05日




■清水真木『感情とは何か――プラトンからアーレントまで』(本体八〇〇円・ちくま新書)思い出した。昭和の終わりにかけてのテレビで大人気の〈てんぷくトリオ〉というお笑いの三人組。三人並んでいて真ん中のリーダーである三波伸介がおどけた顔をさせて「びっくりしたな!! モオ」というギャグを叫ぶ。そうすると、それがやたらとおかしくて、みんな大笑いをした。流行すると、同じギャグ「びっくりしたな!! モオ」を多く連発する。それでも、客は笑った。おかしかった。だから、みんな笑ったのである。なにが、そんなにおかしかったのか。リユウも、リクツもなく、おかしかったから笑ったのであった。私もよく笑った。その笑いもいつの間にか消えた。そんなことを思い出したのである。あれから、相当の年月がたった。
 〈プラトンによれば、驚きは、哲学に固有の感情であり、哲学の端緒に位置を占めるものであるばかりではなく、哲学の目標は、驚きに求められねばなりません。なぜなら、哲学は何らかの事柄を驚きとともに受け止めることに始まり、事柄の真相を驚きとともに把握することに終わるもの(略)〉(本書より)
 つまり、「びっくり」としての驚きと、「驚嘆」としての驚きがあるというのである。びっくりしての驚きは、たとえば、
 〈道を歩いているとき、後ろから音もなく近づいてきた電気自動車がクラクションを急に鳴らせば、私は驚きます。これが「びっくり」としての驚きです。〉(本書より)
 自動車のクラクションでなくても、後ろからわからないように近づいて、耳元で、「ワッ!!」と、大声をあげたとしても、これもびっくりして驚いてしまうだろう。〈「びっくり」としての驚きの原因となったものの本質を表現しているわけではなく、むしろ、驚きの原因に関する無知の反映であると考えるのが自然です。〉ヒトを「びっくり」させることを面白がる。びっくりさせられることを待っているようでもある。「びっくり」させることにカイカンさえおぼえてしまうのである。くせになってしまう。びっくり箱というのがあって、びっくりしたいために、その箱のふたをあける。びっくりしたら喜び、びっくりしなかったらガッカリして、只の箱になってしまう。びっくり箱は、びっくりした後にうまれる笑いにあるのである。お金を出してまで、「びっくり」したいのだ。なにか面白いことはないかねぇ!! と、いうことは、なにか「びっくり」するようなことはないかねぇ!! と、いうことである。驚きには「びっくり」と、「驚嘆」としての驚きがある。
 〈これは対象に具わる何らかのすばらしい本質を肯定的な仕方で表現するものであり、この素晴らしさが私たちに与えるショックとして理解することができます。〉(本書より)
 しかし、「びっくり」は心臓によくない。赤ちゃんが大好きな「いない、いない、バァ!!」も、人生最初の「びっくり笑い」ではないだろうか。「いない、いない、バァ!!」の、笑いも赤ちゃんの時のほんの短い経験であり、誰も「あの時はよく笑ったものだ」なんて記憶はないだろう。テレビに「ドッキリ」と、いう笑いをとる番組があった。あれも、ドッキリとびっくりさせ、笑わせるというものであった。「びっくりしたな!! モオ」は、もう古いのだろうか。







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