書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆殿島三紀 
メタボおやじが見せる最高のふんばり――監督 ディーデリック・コーパル『人生はマラソンだ!』
No.3164 ・ 2014年06月28日




■『ディス/コネクト』『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』『ポンペイ』『収容病棟』『人生はマラソンだ!』等を観た。
 『ディス/コネクト』。ヘンリー=アレックス・ルビン監督。誰かとつながりたいと思いながら、現実世界ではかなわず、ネット世界を心のよりどころに。そこでこっぴどい仕打ちに遭う人々が主人公。ネットの不気味さも迫るが、人同士のつながりに光明を見いだせる。
 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』。コーエン兄弟監督の最新作。あのボブ・ディランが憧れたデイヴ・ヴァン・ロンクをモデルにした映画で60年代フォークソング喫茶の雰囲気にそそられる。兄弟監督久々の音楽映画。
 『ポンペイ』。ヴェスビオ火山の大噴火を最先端SFXで再現しつつ、グラディエーターと名家の娘のラブロマンスとポンペイの悲劇をからめた古代パニック映画。火砕流が迫り火山弾の飛び交うさまは3Dで楽しみたい。
 『収容病棟』。ワン・ビン監督。カメラを精神病棟に持ち込み、収容された人々を延々237分にわたる超長ドキュメンタリーに仕上げた。カメラの存在を意識しない収容者たちの病院内での日常を延々と撮り続けた作品。その長尺の中に必然的に何かが見えてくる。
 今回紹介する映画は『人生はマラソンだ!』。人生とマラソンとは似過ぎているから、この邦題は少々安直か? だが、その安直さの中になにやらしみじみしたものも覗く。原題は『De Mrathon』。メタボ体型の4人のおやじと移民青年の織りなすスポ根カラーの人生映画。オランダ映画である。本国では動員30万人を超える大ヒット作となった。
 自動車修理工場で昼日中からビールをあおり、カードに興じる男4人とまじめに働く移民青年。父親から受け継いだ自動車工場を経営する主人公と、従業員でもあり昔からの仲間でもある3人がいつものように勤務時間中にカード遊びをしていたある日、従業員の1人が税金の督促状の束を発見してしまった。そこから、スポーツとは縁もゆかりもないメタボおじさんたちのマラソン挑戦が始まる。ゼッケンに広告を載せてロッテルダムマラソンを走り、広告料をいただこうというのだ。
 経営難のおやじ、若い女房の連れ子の面倒を見るおやじ、もしかしたら俺ってゲイ? なおやじ、ガチガチのプロテスタント信者の妻に押されっぱなしのおやじ。そんなおやじたちのマラソンコーチを買ってでる移民青年。かっこいい人は一人もおらず、みな等身大の中年男や外国人。マラソンの実力はもちろんなく、健康面でも大きな不安を抱えている。というわけで「おもしろうてやがて悲しき鵜飼かな」的なしんみりした部分もある。オランダ版人情映画とでも呼びたい作品である。
 ロッテルダムマラソンといえば、エリートランナー、一般市民ランナーあわせて2万人以上が参加するオランダ最大のもの。制限時間は5時間半。制限時間のないホノルルマラソンや、時間制限7時間の東京マラソンと較べると、中級者向けの大会である。なんと無謀な! おやじたち、完走できるのか。
 監督は本作が映画監督デビューとなるディーデリック・コーパル。コピーライター出身でハイネケン、アディダスなど超有名クライアントを持つオランダ最大のエージェンシーの責任者。ところが、あっさりと会社の持ち株を売却。長編映画の脚本執筆と監督業に軸足を移してしまった。そのデビュー作が大ヒットしたのだから、まさにビギナーズラック。ちょっと憎らしくなるほど順風満帆な人生だ。とはいえ、成功をかなぐり捨て、海のものとも山のものともわからない映画の世界に飛び込むというのは大変な冒険であろう。
 監督も映画も山坂走り抜けて美味しいゴールに向かえるといいのだが。やはり人生はマラソンである。
(フリーライター)

※『人生はマラソンだ!』は、6月21日(土)よりシネスイッチ銀座ほか、全国順次ロードショー。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約