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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家・尾辻かな子の巻②
No.3164 ・ 2014年06月28日




■繰り上げ当選後の尾辻かな子の活躍ぶりは、「同じ悩みを抱える若者への希望の1議席」をはるかに超える目覚ましいものがあった。
 文教科学委員会、沖縄及び北方問題に関する特別委員会に所属。初登院(※左写真)からわずか6日、沖縄北方問題特別委員会で初質問に立つと、「沖縄県は人口比で5番目にエイズ患者が多い」ことをとりあげて、「感染拡大の背景に同性愛の男性の生きづらさがある。そういう方への予防を重点的にやるべきだ」と提案、山本一太沖縄・北方相から「正直に申し上げて知らなかった」との答弁を引き出した。わずか2か月ではあったが、その間に3回の質問をして存在感を示すと共に、さらに、そもそも尾辻本人のメインテーマである「同性間パートナーシップ法」(異性同士の夫婦に認められる権利の全部もしくは一部を同性カップルにも認めて保証するという法律。デンマークやノルウェー、スウェーデンなどですでに同様の法律が成立施行されている)を議員立法でつくるための検討作業を、参議院法制局を巻き込んで進めたのである。
 こうした国会での発信ぶりが評価されたのであろう。尾辻かな子は「日経ビジネス」の本年新春号(2014年1月6日)の「2014年日本の主役100人」の一人に選ばれた。7つあるジャンルのうちトップの「命がけのパイオニア」の8番目。あの孫正義が2分の1ページ、二刀流のプロ野球選手・大谷翔平が3分の1の扱いに対して、丸々1ページに写真入りで大きくフィーチャーされ、推薦者のゲイ雑誌『薔薇族』創刊者で元編集長・伊藤文学からはこんなエールが寄せられている。
 「(前文略)日本では男性同性愛者が300万~400万人、女性も同じ数いると思う。(略)選挙は無記名なのだから、ゲイたちが目覚めて尾辻さんに投票したら、大変な数になるだろう。世間の人に同性愛者が日本にこんなにいるのかということを知らせることができるのではないか。アメリカでは大統領選に、ゲイの人たちの支持がなければ当選することはできないという。日本だってゲイの人たちが目覚めて団結すれば、同性婚の権利だって獲得することも夢ではない。尾辻さんの闘いはこれからだ。こつこつと持続して、支持者を増やしていくしかないだろう。絶対に諦めないことだ」
 年が明け、ソチ冬季五輪が近づくと、LGBTの人権が国際問題となって急浮上する。昨年6月ロシアで「同性愛宣伝禁止法」が成立。これが物議をかもし、ドイツとフランスの大統領が開会式を欠席した。いっぽう日本では中年の星・葛西紀明と無念の浅田真央の報道にあけくれ、大きな議論にはならなかった。はからずも日本の人権感覚の低さが露呈されるなかで、尾辻かな子の「同性愛否定する地で五輪か」と題する投書が朝日新聞に掲載され、本質的議論に一石を投じた。一部を抜粋して以下に掲げる。
 「(前文略)私は昨年5月、日本で初めて、同性愛者であることを公表した国会議員になった。ソチ市長は『ソチに同性愛者はいない』と断言した。そのようなことはない。同性愛者はどのような社会にも、一定数必ずいる。社会環境のため公言できないだけだ。同性愛のことを話題にするだけで逮捕されかねない社会が、平和の祭典を催すに値するのだろうか。自分の存在が脅かされている不安と恐怖を感じる。安倍晋三首相は開会式に参加予定であり、特別な反応はしていない。それは、この状況を肯定しているようにも感じる。同性愛者もともに暮らす社会という前提を忘れないで欲しい」
 尾辻かな子は、昨年7月に改選を迎えた参議院選挙には出馬を見送り、12月末の衆院選挙に大阪5区から現職の民主党議員・稲見哲男の後継として出馬したが落選、いまは介護支援相談員として生活の糧と活動費をひねりだしながら政治に対してファイティングポーズをとり続けている。しかし、「かつて彼女を擁立した民主党も、再起を期す同氏を公認しておらず、LGBT政策を全面に出すには至らない」(朝日新聞2014年2月2日朝刊)と皮肉交じりに報じられるように、彼女の前途は極めて不透明だ。
 新しい可能性を秘めた伏流水がせっかく地表に出たのに、再び地下へと潜らなければならないのか。これはLGBTの人権活動だけでなく、日本の社会運動にとって大いなる損失である。尾辻かな子が切り拓いたLGBT発の「政治的伏流」は、これからどういう水脈と水系をたどってどこへ向かうのか。それを見定めるべく、これまで政治的には存在しなかったに等しい伏流の源流をまずは訪ねて、そこから下流へとくだりながらその可能性を探ってみようと思う。
(文中敬称略)
(つづく)







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