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評者◆小嵐九八郎
親鸞思想の最果てと極が見えてくる
教誨師
堀川惠子
No.3164 ・ 2014年06月28日




■近頃は、超清潔社会、瑣末の芸術社会、管理社会へ加速を深めていて、アルバイト先の大学の学生や、出版社の若い編集者に拘置所や刑務所の経験を話すと鼻を抓まれる。
 それでも、三十代で東拘に入れられた時、面会があってその帰り、3舎が住まいなのに新米の看守が4舎の中へと連れて行き、俺も何となくついて行って、奇妙な静けさと緊迫感に、あっ、と、背筋を伸ばしてたじろいだ記憶がある。4舎は、死刑囚が収監されているところなのだった。
 死刑制については、老いても躯の動く間はどうにかしなければと、これは娯楽作家とはいえ嘘はナシで、悶悶とする。日本人の死刑制度維持の賛成者が多いことは、もっと、当方を息苦しくさせる。落ちこむ。
 むろん俺だって、マスコミが書く“極悪人”のむごさ、利己主義、ふてぶてしさに、ついつい反発するけれど、どんな人間だって次があるし、未来を望むし、それを国家という凄まじい権力が、たった一人の無力になってしまった人間を抹殺するのはあまりに暗い。暗さの質とスケールがどでかい。少年じみた感覚や論でいえば、処刑されたイエスの「九十九匹より、迷える一匹の羊」、親鸞の「悪人正機説」がなぜ脈脈と命を保ってきたのか考えてほしいと叫びたくもなる。
 それでも、死刑囚の気持ちの要は解ろうとして解れない。死刑執行を職業として命令に従う人の気持ちには、この頃やっと「あれーっ、悲痛」となってきたけれども。
 紹介するのが四カ月ばかり遅れたが、必ずしも死刑反対で頑張ったわけではなく、時にこの主張をする教誨師を追放したこともある教誨師の重鎮の人生を描いたノンフィクションの本が出ている。堀川惠子さんの『教誨師』だ。死刑囚と付き合って五十年以上、浄土真宗の僧侶の苦しみ、悲しみ、非力を自覚する人生を炙り出している。奇跡的に原爆から助かってしまった体験での“原罪”、娼婦との間の切なさ、アル中を潜っての死刑執行の立ち会いを含む切実な事実がある。親鸞思想の最果てと極が見えてくる。







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