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評者◆伊達政保
30年の重みが、この映画にはある――三國連太郎主演の『朽ちた手押し車』(監督・島宏)
No.3162 ・ 2014年06月14日




■30年前に制作されながらも未公開となっていた三國連太郎主演の映画『朽ちた手押し車』(監督・島宏)が、発掘されロードショー公開された。老人問題として現在ではより深刻化した様々な課題に、真正面から取り組んだ作品であった。そこに提出された問題は、映画化には早すぎたという見解もあるが、オイラからすれば現在の状況は30年前に逆行していると思うのだ。
 新潟の漁村を舞台に、痴呆症(現在では認知証)の祖父(当時61歳の三國の壮絶な演技)を献身的に介護するその妻(初井言榮)、まさに老老介護、一家を支える長男(当時55才の田村高廣)と妻(長山藍子)の苦悩、そしてその娘の三世代家族で物語は展開する。
 30年前、地方ではそうした家族状況が実情であったろう。以後、老人福祉の進展は老人介護施設の拡充に向かっていく。とりわけ地方の過疎化高齢化により介護施設は増えていくことになり、地方財政を圧迫することになっていった。これにより、現在の政府は家族による在宅介護へ方針を切り換えていく。核家族ばかりか単身世帯の増加を無視し、家族の絆を謳い上げ、行政による福祉ではなく家族による自立自助を促そうとしている。何のことはない、30年前の家族状況へ戻れということなのだ。
 さて映画だが、そうした家族のもとへ東京で失業した二男が帰郷してくる。労働力における都市と地方の問題も触れている。親の介護を巡る兄弟の対立、そして介護を担っていた母親が難病で倒れ、余命半年と宣告される。病をおしながら夫を介護する老老介護の壮絶さ、病状は次第に悪化して自分が亡くなったらと考え夫と心中を図るも未遂。長男はそのことを一人で抱え込み、余りにも苦しむ母親を見兼ねて、医者に安楽死(現在では尊厳死)を頼み込む。ようやく弟に打ち明け、当初同意した弟も母親を殺すことに忍びず反対し兄と対立。結局母親は病院で死亡する。病院は安楽死ではないと言うが、映画はそうであったことを漂わせて終わる。この辺りが30年前に公開出来なかった一因であろう。現在では尊厳死と言い換え、容認しようとする論調が強まっている。であるならば、自殺や自殺幇助も認められなければならないと思うのだが。
 この映画は高齢者問題の多くが詰め込まれている。当初、安楽死問題の構想から出発し、そこに至るまでの経過を描くことで必然的に高齢者問題に触れざるをえなかったのだろう。高齢者の食欲、性欲にも触れている。オイラ途中で、舅の三國が嫁の長山を犯すんじゃないかと思ったほどだ。島監督を始め三國、田村など多くの出演者が鬼籍に入ってしまった。30年の重みが、この映画にはある。







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