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評者◆ベイベー関根
マンガのバイリンガル化は意外に進んでいるようで。
ヘンシン
ケン・ニイムラ
No.3162 ・ 2014年06月14日




■いやー、前にここでも取り上げた山田参助の『あれよ星屑』が出たねー。これが実に素晴らしい! 全頁滂沱モノ! この欄を読んでる人はマストバイ! しかし、今月ご紹介するのはこの作品ではないのだ。
 同じくビームコミックスから山川直人の『夜の太鼓』が出たねー。これまた実に素晴らしい! 全頁滂沱モノ! この欄を読んでる人はマストバイ! しかし、今月ご紹介するのはこの作品でもないのだ。
 はいこれ、ドン! ケン・ニイムラ『ヘンシン』!
 作者はマドリード出身、日本人の父とスペイン人の母の間に生まれ、2008年にアメリカで、ジョー・ケリー原作の『I Kill Giants』によりマンガ家デビュー(邦訳小学館、第5回国際漫画賞最優秀賞を受賞)、アイズナー賞をかっさらい、『アメイジング・スパイダーマン』を手がけた後、いくつかのアンソロジーに作品を発表、現在は日本在住。で、『IKKI』で描いていた連作短篇をまとめたのが、この『ヘンシン』だ!
 実をいうと、『I Kill Giants』はノりきれない部分もあったんだけど、これはよい! アメリカン・オルタナティヴ・コミックスの文法で描かれた『I Kill Giants』から、ここでは日本のマンガの文法の方にシフトしつつ描いているわけだけど、で、もちろん作者はたぶん子供のころから両方に通じて育ってるんだと思うんだけど、さすがにうまいもんだわ。
 しかも、話の作り方には、カラッとしたアメリカンな味わいがあるわ、日本のマンガ家が意外に描かないような構図やアングルがさりげなくまぎれこんでいるわで(p.16の最後のコマやp.18の大ゴマなど)、いやいや感服。
 いけね、それよかもうちょい中身を紹介しないとな。簡単にいうと、いろんな登場人物が街のどこかで巡りあう/引き起こす不思議な出来事を描いた短篇集ってことになるんすかね、田舎から出てきてなぜかヤバい「仕事」に巻き込まれる女子高生、終電を逃したサラリーマンが出逢う不思議な女、超能力をもつ家族に生まれながらいじめられそうな雰囲気の子供、集団自殺をしに集まった人たちの前に現れる初老の男、不可解な殺人者を追う刑事、ときどき著者の分身らしきキャラクターが登場するのもお約束でヨシ!
 全体の構成がまた巧みで、作者の分身が登場する作品も、連載時にはちょうど2話ずつ挿みながら描かれているとか、目次を見ると、言語によるコミュニケーションの壁を描いた描き下ろし「MERCI」を中心に、ちょうど対照をなしてるとか、やるもんだな。
 前にも書いたかもしんないけど、近く世界を制覇するマンガ家って、こういうマンガにおけるバイリンガルみたいな人じゃないかと思うんだよな。たぶんいま一番うまく日本のマンガとアメコミをハイブリッド化できてるケン・ニイムラ、今後どういう展開をしていくのかわからないけど、今のうちにちょっと注目しといた方がいいと思うぞ!
マンガのバイリンガル化は意外に進んでいるようで。









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