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評者◆前田和男
連載をはじめるにあたって
No.3162 ・ 2014年06月14日




■二〇〇八年六月から二年にわたり本紙に「政権交代へのオデッセイ」と銘うった連載を執筆した。それは歴史的な政権交代の一年後、『民主党政権への伏流』(ポット出版)として一冊にまとめられ、高野孟氏から本紙書評で以下の評価をいただいた。
 「読了してまず思ったのは『これは全民主党議員に読ませなくては』ということだった。特に直近の衆院選挙で上がってきた『小沢チルドレン』などは、民主党がどんな経緯と思いの積み重ねの末にここまで辿り着いているのか、恐らく何も知らずにピーチク言っている。次にマスコミの記者連中である。(略)特に若い記者には本書を読んで少しは無知を克服してほしい」
 しかし、その後、民主党政権に起こった「無残」はどうだろう。わが身を“政治八卦見”と開き直って悪い方の見立てがあたったと喜べばいいのだろうが、私にはそんな器用な芸当はできない。正直なところ、居心地が悪くてしかたがなかった。その原因は何か、それを解消するにはどうすればいいのか。実はそれが今回連載の“続編”をスタートさせた動機である。
 前回の連載をはじめるにあたって次のように述べた。
 「政治状況が極限までねじれたいま、確実に『D・DAY』が近づいていることは誰の目にも明らかである。(中略)そこで危惧されるのは、『そのとき』が近づけば近づくほど、高くて大きな所から『大きな物語』が語られるいっぽう、伏流水の中にある『小さな言葉』は無視されてしまうことだ。つねに歴史は勝ち残ったものたちの歴史である。しかし、近々訪れるであろう『政治的大変』の未来を歪めず豊かにするためには、伏流の中にこそ声を聞かねばならない」
 この私の想いは、時制を未来形から過去形へ、すなわち「近々訪れるであろう」を「すでに訪れて潰えた」に変えてもなお変わっていない。いや、いっそう強くなってさえいる。
 歴史的政権交代直後から民主党政権はダッチロールをつづけ、三年三か月で自己崩壊した。その原因をたずねると、多くの識者は、鳩山政権の普天間問題、菅政権の震災と原発事故、野田政権の消費税増税導入という政策対応力の未熟と欠損を挙げることだろう。しかし根本には、「政権の交代」はなしたものの、「政治文化の交代」への目的志向性が欠如していたことに真因があるのではないか。それについては、単行本化のときに、住沢博紀が仕掛けたローカルパーティという伏流にふれてこう指摘した。
 「今回政権交代は起きたが政治文化の交代は起きていない、それがマニフェストや政策決定のブレよりも民主党政権のダッチロールの本質である。裏をかえせば、政治文化の交代を起こせるどうかに民主党と政権交代の未来はかかっている」
 新しい政治文化のシーズは表のメインストリームには宿らない。大物政治家による「我かく戦えり」の「大きな物語」にも宿らない。むしろ政権交代を準備した名もなき人々の「小さな物語」にこそ宿る。だからこそ、政治文化を交代させるには、政権交代を準備した伏流水をさぐり、そこに「わだつみの声」を聞かねばならない。
 前回の連載でも、しばしば「わだつみの声」を伏流水から拾い上げ、新政権の危うさを問うた。たとえば、高木郁郎が社会党から仕掛けた「よりまし政権」という伏流にふれてこう指摘した。
 「いま民主党は『政策立案・理論武装』を民間のシンクタンクに、脚本・演出は大手広告代理店(そのうちの一つは外資系)にゆだねている。いずれもこぎれいな高層ビルに快適なオフィスをもち、高木の『活動家部屋風』とは天と地の差がある。いや『見てくれ』よりも決定的な違いは、そこには高木的情熱が感じられないことだ。高木的情熱を継承できないかぎり、かりに民主党中心の政権交代がおきてもそれは虚しいものでしかないだろう」
 あるいは仲井富が仕掛けた「殿様連合」という伏流について、単行本化にあたってこう加筆した。
 「昨夏の政権交代、今夏参院選のゆりもどしの背景に『運動』はない。あるのは毎週のように行われる世論調査と何年かに一度の投票行動だけだ。大衆運動なき政権交代。ここに政権交代の危うさがあるのかもしれない」
 残念なことに、いずれの危惧も的中してしまった。それはひとえに新政権が表のメインストリームの「大きな声」のみを受けとめ、地下の伏流に潜む「わだつみの声」に耳を傾けなかったからだ。これだけの伏流水があったからこそ政権交代が起きたにもかかわらずそれに気づかなかったのである。いや、あえて気づかないふりをしたとさえ思えてくる。だとしたら何とも情けない話で、ここに私の居心地の悪さの原因もある。
 であれば、どうすべきか。政権交代が潰えた先を見定めるためには、いまだ発見されていない伏流水に「わだつみの声」を聞かねばならない。まだまだたずね歩くべき伏流水はある。耳を傾けるべき「わだつみの声」はある。前回にもまして、さらなる伏流を探り、その中にわだつみの声を聞き、流れなき流れの中に声なき声を丁寧に拾い上げ束ねていく、この地道な作業をつづけるより他に王道はない。中には伏流にもならない源流の卵もあるかもしれない。それをダウザーよろしく山や谷をふみわけて探していこう。長丁場になるが、しばしお付き合いをいただきたい。
(文中敬称略)
(つづく)

※著者プロフィール/前田和男(まえだ・かずお)氏=1947年生まれ。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)、『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)など多数。







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