書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆鈴木慎二(BOOKS隆文堂)
改めて、戦前と戦後の連関性を
戦後日本の民主主義革命と主体性
ヴィクター・コシュマン著、葛西弘隆訳
No.3162 ・ 2014年06月14日




■與那覇潤さんが、『史論の復権』(新潮新書)のあとがきで、こう書かれていた。
 「世界には普段から自分たちには内部に意見の対立や、ぎこちない相互摩擦を抱えているという自己認識を持っている社会と、そうでない社会とがあります。日本という国は後者の典型で、その種の問題は『異常事態』が起こったときにだけ、外部から持ち込まれるものだと思われている場合が多い。そういう社会では『ことば』が根づかず『空気』による支配になる」と。
 東日本大震災から一年くらいは「異常事態」だったこともあってか、これからの対策について盛んに議論がなされていた気がするのに、自民党が一昨年第一党に返り咲いてからは、ばったりと議論が消えた。まるで皆が傍観者のようになっている。
 五輪招致決定のほか、特定秘密保護法の成立、国民投票法改正案の衆院通過などが、ここ半年間で強行採決されてしまっているにもかかわらず、報道が一部を除いてほとんどされていない。まるで太平洋戦争に突入していく戦前の日本が戻ってきてしまったのかと思えるほど。
 二月に、特定秘密保護法への不安から「ファシズムと戦中日本」というフェアを企画し、展開してみた。売行きは世相を反映してか、芳しくはなかったが、目を留めてくださった方が数多くいて勇気づけられた。
 今回挙げた本も戦前・戦後の思想史を調べていたとき、ハリー・ハルトゥーニアン『近代による超克』(岩波書店)、同『歴史と記憶の抗争』(みすず書房)、ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』(岩波書店)、テツオ・ナジタ他編『戦後日本の精神史』(岩波書店)、酒井直樹他編『「近代の超克」と京都学派』(以文社)、中野敏男『大塚久雄と丸山眞男』(青土社)などに目を通していくうちに入手していた。
 先に挙げた本との共通項が多かったこと、「近代文学」の同人(平野謙、本多秋五、荒正人)、京都学派の田辺元と梅本克己、丸山眞男と大塚久雄、竹内好らの思想に着目して、一九五〇年代の思想背景を探っていく試みなのだが、「戦後民主主義」「主体性」がキーワードになっている。
 読了後に感じたのは、取り上げている人たちの年齢が自分の感覚よりもずっと高かったこと、例えば、「近代文学」の同人たちの年齢は最年少の小田切秀雄が二十九歳で、最年長の山室静は四十一歳だから、年齢差は十二歳。とても意外だった。革命という概念は青年のものというイメージがついているけれども、戦後すぐの民主革命は六十年代の学生運動と比較したら本当に遅れてきた青年たちの運動だったという感を深くした。
 もうひとつ気がついたことは、竹内好を除いてだが、「近代文学」の同人たち、丸山眞男、大塚久雄が戦後の思想の主流派になってからは、その体制維持へ力を注ぎ、民主主義革命を停滞させてしまったことを指摘したことがこの本の最大の特徴ではないだろうか。コシュマンの指摘と類似するのが先述した、中野敏男の『大塚久雄と丸山眞男』で大塚と丸山の「動員の思想」に着目しているのを発見したとき、戦前と戦後の連関性を改めて読み返したいと思った。それが今の日本に対する異議申し立てだと感じたから。
 最後に、コシュマンの本と中野敏男の本のあとがきで献辞をささげられている方が同じことに今回読み返して気づいた。東京外国語大学の岩崎稔さん。この方が単著を一冊も書かれていないことに驚きを隠せなかった。心ある編集の方、是非岩崎さんの単著をつくって下さい。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約