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評者◆小嵐九八郎
野坂昭如氏を想う――「オール讀物 5月号」(本体九〇七円・文藝春秋)ほか
No.3162 ・ 2014年06月14日




■四月下旬の昼中、久しぶりに山手線に乗った。窓の外の緑が陽光を透かして、目ん玉に快い。空のちぎれ雲が良い。それで、ぎょっ。車内7割ほどの人がスマホに熱中している。人生って、あっ、か、ああ、ぐらいの短さなのに損をしておるわ。大江健三郞の『性的人間』の主人公の為す“痴漢”の方が有意義にすら映る錯誤に陥ってしまった。
 大学生協の全国組織の調査だと、2013年の大学生の4割超が、一日の読書がゼロとのこと。「暇さえあれば、スマホ」だと。
 俺は、人生にとって大切なのは食う、愛する、働く、政治や社会に関わるなどの行為が一番だと考える。しかし、グーテンベルクの印刷術の発明以前から、人類は、宗教書、哲学書、文学やポエムや春本などから、行為の道を照らされてきたと思う。当方の“覗き”の仕方が未熟のせいか、未だに電子化された書籍を電車で読んでいるスマホの客は、知らない。
 学生がスマホばかり手にしている姿と、そこから出る感性と思考からは、世界史に先立って日本人が滅びるは必至なる予感しかない。
 文学でいえば、漱石が『こころ』をはじめとして、近代人のエゴイズムに滅びを既に見つめていた。早死にした梶井基次郎が『桜の樹の下には』の散文詩で美と個人の滅びを。敗戦直後には太宰治が『斜陽』を含め、時代精神の滅びを。そういえば、60年安保以降、作家とはノーテンキになったかと気が滅入る。が、ノサカこと、野坂昭如氏が『エロ事師たち』で、おかしさを溢れさせながら、ぎりり、性のニヒリズムについて、本邦のみならず世界史的に初めて描き、“終末思想”にこだわってきた。氏は無念、12年前に病に倒れた。 その野坂氏の近況を、かつて元気な時に吉永小百合さんに迫ったセリフまで分かるように、水口義朗さんが「オール讀物 5月号」に書いている。野坂氏の「毎日新聞」の「七転び八起き」は、そうっと頷きながら読んでいるが、水口さんに教わった「新潮45」の「だまし庵日記」は初めてで、でも、ウンコへのリアリズムに、おお、口述筆記は太宰の名作『駆け込み訴え』も然り。粘りつく文体が、別へ、が野坂氏にはある。センセエ、死の寸前まで書いてください。頼んます。







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