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評者◆殿島三紀
どうなる!?ミツバチと人間の未来――監督 マークス・イムホーフ『みつばちの大地』
No.3161 ・ 2014年06月07日




■『チョコレートドーナツ』『バチカンで逢いましょう』『ブルージャスミン』『罪の手ざわり』『みつばちの大地』等を観た。4月5月は良い映画が多い。
 『チョコレートドーナツ』。トラヴィス・ファイン監督。ゲイへの偏見が未だ根強い70年代、ネグレクトされたダウン症児を養子にしようとしたカップルがゲイゆえにぶつかる障害を描いた話題作。実話だ。
 『バチカンで逢いましょう』。『バグダッド・カフェ』の豊満なミューズ、マリアンネ・ゼーゲブレヒトが登場。ヒットメーカー、トミー・ヴィガント監督の作品。
 『ブルージャスミン』。ウディ・アレン44本目の監督作品である。ヨーロッパを舞台にした作品が続いた後、久々にアメリカに帰ってきた。超セレブ女が全てを失い、復活を図るが、悲惨な結末に。監督の意地の悪さとケイト・ブランシェットの渾身の演技がすごい。
 『罪の手ざわり』。ジャ・ジャンクー監督。ベルリン、ヴェネチア、カンヌの世界三大映画祭全てで受賞した実力派若手監督が今回「どうだっ!」とばかりにぶつけてきた作品。中国で実際に起きた事件を基に、急速に発展する国家の片隅に追いやられ、隙間に落ち込み、罪を犯すに至った人々のドラマを描き出した。
 そして、今回ご紹介する作品は『みつばちの大地』。このタイトルからスペイン映画『ミツバチのささやき』を連想したが、本作はドキュメンタリー映画。内視鏡カメラやマクロ撮影を用いて普段目にすることはできない巣箱の内部を撮影し、女王蜂誕生の瞬間をとらえる。飛んでいるミツバチを小型カメラ搭載のミニヘリコプターや無人偵察機で撮影。飛行しながら行われる女王蜂の交尾シーンもカメラにおさめている。なんだ、科学ドキュメンタリーか、と思われる方もあろう。しかし、違うんですね、それが。
 1万年の昔から人間と深い関わりを持つミツバチに最近異変が起きているという。その原因を求めて世界中を旅したマークス・イムホーフ監督が静かに鳴らす文明への警鐘ともいえる作品。養蜂もしていた監督の祖父が「人が口にする食物の1/3は彼らがいなければ存在できない」と幼かった監督に言い聞かせた言葉が心に残り、監督は旅に出た。
 その旅は伝統的な養蜂を行う老人が暮らすスイス山岳地帯から始まり、アメリカ、オーストリア、そして、ミツバチの大量死がまだ始まっていないオーストラリアで終わる。
 ショッキングな映像がいくつかあった。
 のどかな蜂の羽音をかき消す農薬散布機の騒音。蜜を集めるミツバチの丸い身体が薬液の水滴に覆われ、花から落ちる――。
 その養蜂家はアメリカ全土を農園から農園へと移動し、ミツバチを受粉のために働かせて収入を得ている。彼は農薬散布や長距離移動が蜂に悪いと知りながら、経済効率を優先する。彼が飼育する蜂たちは抗生物質漬けにされ、その蜜にも当然薬物が含まれているのだ。
 中国では女性が花粉を集め、袋詰めにしていた。
 文革時、毛沢東の号令一下、穀物を荒らす雀が一斉に殺された。結果、害虫が異常発生。その駆除のため大量の殺虫剤が散布され、ミツバチも巻き添えを食う。中国の一部の地方では今なおミツバチが存在しない。女性は彼らに代わって花粉を採取する業者だった。
 いやはや予想できなかった訳ではないが、人間の強欲さと傲慢さには今更ながら呆れかえる。旅の最終地オーストラリアでは、ミツバチの免疫システムを研究する監督の娘夫婦が、野生化したミツバチと飼育された女王蜂を交配した蜂を無人島へ運んでいた。未来へと生き延びる能力を持つ種を繁殖させるためだ。ミツバチと人間の未来を守る大切な研究である。まるで『ジュラシック・パーク』だが、未来があのような展開にならないことを願う。
(フリーライター)







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